Ep2 Chapter“1” Scene“1” Cut“1” Take“2” 体型感謝は唐突に
「やめて下さいッ!離してッ!」
「――ッ!? 女の子が誰かに襲われてる?早く、ケーサツに連絡しなきゃッ!
――えっ……あれ?」
ミチルの職場、「業スムーパー」からの帰り道。そこにいたのは誰かに絡まれているであろう女性。
これが数奇なモノだった――
ミチルは咄嗟にスマホを取り出し“110”をタップするも、その光景に“通話”を押すのを躊躇った。
彼女は人が困っているなら助けたいと思う反面、ただの女子高生が通報して厄介事に巻き込まれたくないとの思いもある。ミチルはどこからどう見ても女子高生だが、警察が来て学校名や家庭環境を聞かれ、それらの場所に連絡が行くのだけはどうしても避けたかった。
彼女は至って普通の高校生活を送りたい。それはこれからも同様に……だ。決して「こんな時間に小学生が出歩いて何をしていたんだ?」みたいな事を言われるのを危惧しているワケではない。そんな事を言われたら、それが警察でも睨まないでいられる自信はない。
従って、「普通の女子高生」がミチルのモットーである以上、“通話”へと指が伸びなかった。
叫ぶ女性は何かを振り払おうと必死な様子だ。現在は夜であり、遠目だからその容姿までは細かく分からないが、声から察するに若い女性に違いはなさそうだ。
しかし遠目にいくら見ても、「離して」と叫んでいる女性の周りには誰もいない。だからこそ尚更、ミチルはスマホをタップするのを躊躇したのである。
簡単に言ってしまうと、女性が叫びながらパントマイムを踊っているように見える。それならこの女性はただの狂人で困っているワケじゃない。
警察に通報しても、この女性は助からないし、むしろ連行される可能性がある。そうなるとミチルが追い求める「普通の高校生活」が近所に住んでる以上、逆恨みから脅かされる可能性もある。
結果としてミチルは考えを切り替える事にした。それはもう“推しアニメ”の「ランポーくん」を見習ったのだろう。彼は冷静沈着で着眼点が鋭く、普通の人なら想像も付かないような事件であっても完璧に推理してしまう。
それを見習ったミチルは夜の公園で女性が叫びながらパントマイムの練習をしているなら、それはそれで通報案件になるかも知れない……と思いながらも、近所迷惑なのも事実……とも思いながらも、だけれども、「緊急性が無いならそれこそ“通話”を押すのは自分である必要がない」と考えるに至る。
それのどこに「ランポーくん要素」があるのかは分からないが、至って普通の女子高生なら考えそうな感じがしなくはない。
要するに「他力本願見て見ぬフリ」というヤツだ。
「もうッ!怒りましたよッ!どうしても離してくれないなら、成敗しちゃいますッ!」
斯くしてミチルにとってこの後、一生涯忘れられない出来事となる“出会い”の歯車が、この時の二人からは聞こえない場所で“カチリ”と鳴り響いたのだった――
〜 Set “Serpens hasta” exeat pro V seconds 〜
「うおぉぉぉぉッ!オレサマの字は益徳。穿て蛇矛!誇れ威風・喊声怒気」
パントマイム女性の目が一瞬怪しげな光を帯びたその瞬間、その手に現れたのはクネクネと刃先が曲がった“矛”だった。それをパントマイム女性は先程の言葉遣いとは別次元の野太い大絶叫を上げながら、ソレを振り回し始めたのである。
そうして振り回された“矛”は数秒後に、何の余韻も残さずに消えていった――
ミチルは「この場にいてはいけない」と咄嗟に思ったものの、驚きの余りに腰が抜け脚が凍り付いたかのように動けずにいた。
「コレは「狂人」の範疇が過ぎている。普通の女子高生がなんとかなる話しじゃないから、近所の人が早く通報して」……と思っていたに違いない。
――ぴこんッ
「えっ?! ウソでしょ?なんでこんな時に通知音が鳴るのッ!?」
「誰だッ!そこにいんのはッ!」
鳴って欲しくない時に鳴ってしまう通知音。「噂をすれば曹操」という言葉が昔はあったようだが、少なくともミチルは知らない。
「(ひぃ……これ絶対にヤバいヤツだ!あの目、絶対に……)」
「あ゛ぁ?なんだ女の子か。なぁ、お嬢ちゃん何か見たか?」
――ぶんぶんぶんぶんッ
ドスを利かせた声で女性が近付いて来る。腰が抜けたミチルは必死に首を振り、知りもしない神に祈りを捧げている真っ最中だからこそ、「ガキ」やら「お嬢ちゃん」に反応する事はなかった。
「そうか。お嬢ちゃんはこんな時間に買い物か?偉ぇな。ところで本当に、何も見 て ね ぇ よ な?」
――こくこくこくこくッ
「おしっ。それじゃ喩え何か見ていたとしても、許してやらぁ。流石にガキを手にかけるワケにはいかねぇからな。
だ が、この事は母親にも話しちゃダメだぞ?分かったな?」
ドスだけが外れた声色でパントマイム女性はそう話すと、手をパタパタと振りながら何処かへ行った。
この時ばかりは心底自分の体型に感謝したのは言うまでもない――
―― To the Next Cut ――




