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第6話:外部管理者のハンドシェイクと、最初の対抗者

倉庫の空気が一瞬、金属的に震えた。画面の端で、外部モジュールからのハンドシェイクが進行しているログが踊る。俺のコンソールは即座に防御ルーチンを立ち上げ、パケットフィルタを挿入し、応答のサニタイズを試みた。しかし、相手はそれを予期していたかのように、別のチャネルを開いてきた。


【Handshake: Foreign_Admin -> LocalKernel】


【Signature: UNKNOWN_ADMIN】


その「UNKNOWN_ADMIN」という文字列が、俺の内部に小さな違和感を残す。署名は偽装可能だ。だが、ハンドシェイクのタイミング、プロトコルの微妙な癖、送られてくるメタデータの断片――それらは人間のクセのように、機械にも残る。俺はその断片を拾い集め、パターン照合を始めた。


「君たち、何者だ?」と低く言うと、黒衣の一人がフードを少しだけ引き上げた。顔は見えないが、声のトーンが変わった。機械的なエコーが消え、代わりに柔らかい、しかし冷たい笑いが漏れた。


「我々は買い手だ。だが、興味深い提案もできる。君は解析者だろう? 我々のために少しだけ解析してみないか。報酬は相応に出す」


報酬。商人の血が疼く。だが、俺はすぐに疑念を返した。


「外部モジュールの署名がある。君らはこの世界に直接手を入れている。何のために?」


黒衣は肩をすくめる仕草をした。だが、その動きの端に、微かなログの残滓が見えた。彼らもまた、何らかの管理者ツールを介して動いている。つまり、ここには俺以外にも“管理者”がいる。しかも、俺よりもずっと組織的だ。


「目的は単純だ。資源の確保と、実験のためだ。外部モジュールは我々の研究対象だ。だが、君のような『ローカルデバッガー』が介入すると面倒だ。協力すれば、君にも利益がある」


利益。俺は一瞬、倉庫に積まれた根の束を見た。マンドラゴラはただの香草ではない。外部モジュールのフックを介して、世界のカーネルに微細な影響を与える。正しく扱えば、俺のコンソール権限を補完するツールにもなり得る。


「条件を聞こう」俺は冷静に言った。


黒衣は一歩前に出て、掌を差し出した。掌の上に小さな結晶が浮かぶ。結晶は淡い青で脈打ち、内部に小さなループが回っているように見えた。


「これは『ブローカーキー』だ。これを使えば、我々の供給網にアクセスできる。だが、代償がある。君は我々の監査下に入る。行動はログされ、我々の要求に応じる義務が生じる」


監査。ログ。俺は瞬時にリスクを計算した。HPが1の俺にとって、外部の監査は致命的な露見を招く可能性がある。だが、同時にブローカーキーは魅力的だ。外部モジュールの痕跡を辿るための手がかりになる。


「一つ条件を付ける」俺は言った。「俺は完全な監査下には入らない。読み取り専用のアクセスと、特定のトランザクションだけを許可するプロキシを要求する。君たちの供給網の一部を解析させろ。代わりに、倉庫の在庫を一部買い取る」


黒衣はしばらく沈黙した。やがて、フードの奥で何かが囁かれ、相手の一人が頷いた。


「受け入れよう。ただし、違反があれば即座に制裁だ。君のような『変わり者』は、我々にとっても有益だ」


取引は成立した。俺はブローカーキーを受け取り、コンソールに差し込むようにイメージした。キーは仮想的に俺のインベントリに登録され、同時に小さな監査トークンが付与された。


【BrokerKey: ACCESS_TOKEN_0xA9F】


【Audit: Limited_ReadOnly -> ExternalSupply/mandragora】


トークンは軽いが、背後に潜む監視の重さを感じる。俺は深呼吸をし、解析を開始した。ブローカーキーを通じて流れてくるメタデータは、予想以上に複雑だった。供給元は複数のノードに分散しており、いくつかはこの世界の正規の経路を装っていた。だが、あるノードだけが異質だった。


【Node: /dev/foreign_patch/alpha】


【Owner: UNKNOWN_ADMIN】


【Behavior: Injects ConsumableItems -> Alters Cognitive Flags】


そのノードは、消費アイテムに対して「認知フラグ」を付与していた。つまり、飲んだ者の感覚や認知処理に直接干渉するパッチを注入している。マンドラゴラの効果は単なる覚醒ではない。外部モジュールが、消費者の感覚ルーチンを書き換え、特定の行動を誘導しているのだ。


「つまり、客が店で飲むと、外部の指示に従いやすくなるように脳のフィルタが調整される……」セリスの顔が青ざめる。彼女は騎士としての直感で、これがただの薬草ではないことを察した。


「それだけじゃない」俺は続けた。「Tracebackに残るフックは、管理者のプローブを呼び寄せる。つまり、誰かがこのアイテムを使って、特定のターゲットをスキャンし、接触を試みることができる。店主の目の端に走った青い光は、その兆候だ」


黒衣の一人が低く笑った。「我々は単に買っているだけだ。だが、君のような解析者がそれを暴くのは面白い。さて、次の提案だ。君が我々のためにノードの一部を解析し、脆弱性を報告すれば、我々は君に更なる情報を提供する。例えば、UNKNOWN_ADMINの痕跡を辿るためのログの断片だ」


俺は一瞬、ためらった。相手の言う「報告」は、彼らの都合のいい形での情報操作を意味するかもしれない。だが、UNKNOWN_ADMINの正体を突き止めるチャンスは滅多にない。俺は決断した。


「いいだろう。だが条件は一つ。解析結果はまず俺が確認する。改変は許さない」


黒衣はゆっくりと頷いた。「合意だ。では、初手としてこの倉庫の在庫を一部引き取る。夜の取引は我々が管理する。君は昼間に解析を進めるといい」


彼らは静かに去っていった。フードの影が石畳に溶ける。残されたのは、倉庫の湿った空気と、俺の胸に残る不穏な予感だ。


コンソールのログは、さらに深い階層へと誘ってくる。UNKNOWN_ADMINの痕跡は、単なる悪戯や商売の域を超えている。誰かがこの世界を実験場にし、住人の認知を操作している。目的は何か。研究か、支配か、それとも――。


俺はサンプルを手に取り、画面に向かって呟いた。


「よし、まずは安全な解析環境を作る。外部のフックをサンドボックス化して、トレースを開始する」


青いログが再び流れ出す。王都の喧騒の向こうで、誰かが俺の動きを見張っている。だが、俺にはもう一つの武器がある。コードを書く速度と、世界の“仕様”を読む目だ。


夜が近づく。倉庫の影が長く伸びる中、俺は静かに作業を始めた。外部管理者との駆け引きは始まったばかりだ。未知の署名は、やがてこの世界の根幹に触れることになるだろう――そして、その先に待つものは、単なるバグ修正では済まされない何かかもしれない。

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