第35話:未鑑定オブジェクトの「プロパティ参照」と、予期せぬクリティカル・エラー
第35話:未鑑定オブジェクトの「プロパティ参照」と、予期せぬクリティカル・エラー
ガメイルに案内された地下倉庫は、まさに**「ガラクタの山」**だった。
埃を被った魔導具、出所不明のスクロール、そして脈動を続ける不気味な心臓のような何か。
「……セリス。これ、全部鑑定したら一晩じゃ足りないぞ」
俺はHPの回復を待ちきれず、コンソールを空中に展開した。
### 【デバッグ・ツール:詳細解析(Deep Scan)実行中...】
* **アイテムA:** 「錆びた古銭」 → **実体:** 偽造防止用メタデータが埋め込まれた管理ID。
* **アイテムB:** 「割れた眼鏡」 → **実体:** 視界の解像度を強制的に下げることで処理負荷を軽減するデバッグ用ゴーグル。
* **アイテムC:** 「黒い立方体」 → **実体:** **[アクセス拒否:権限レベルが不足しています]**
「おっと……?」
俺の指が止まる。
「黒い立方体」をスキャンしようとした瞬間、コンソールに真っ赤な警告文字が躍った。
> **Warning: Unauthorized Access to Kernel Object.**
> **(警告:カーネルオブジェクトへの不正アクセスです)**
「レイジ殿、顔色が悪いぞ。またHPが減ったのか?」
心配そうに覗き込むセリス。
「いや……それどころじゃない。ガメイル、この『黒い箱』、どこで手に入れた?」
ガメイルは震えながら答える。
「そ、それは先ほどの『灰色のローブの男』が、術式のお礼として置いていったものです……。開け方がわからず、放置しておりましたが」
嫌な予感が的中した。
バックドアを仕掛けた本人が、意図的にこの場所に**「トロイの木馬」**を置いていったわけだ。
俺がこれに触れることさえ、奴の計算の内だとしたら?
「セリス、離れてろ。これはただの魔導具じゃない。この世界の『ルートディレクトリ』に繋がってる可能性が高い」
俺は慎重に、コンソールから**「隔離環境」**を展開し、黒い立方体を包み込んだ。
物理的な接触を避け、論理階層だけでその中身を覗き見る。
### 【展開結果】
箱の中から現れたのは、文字列の羅列だった。
それは、この世界の住人には決して理解できない、だが俺にとっては見慣れた「ログ」だ。
`[System Log: 2026.03.27_11:15]`
`[Status: Garbage Collection in Progress...]`
`[Target Area: Royal Capital (Sector 7)]`
`[Command: Purge_All_Redundant_Data]`
「……ガレージコレクション(不要データ削除)。ターゲットは王都だと?」
セリスが剣の柄に手をかける。
「レイジ殿、それはどういう意味だ? 難しい言葉はやめてくれ!」
「簡単に言うと……」
俺は冷や汗を拭った。
「誰かがこの世界を『掃除』しようとしてる。それも、**俺たち人間を『不要なデータ』としてゴミ箱に放り込むことでな**」
その時、隔離していたはずの黒い立方体が、パキリと音を立ててひび割れた。
中から溢れ出したのは、物理法則を無視して空間を侵食する、漆黒の**「Null(虚無)」**。
「チッ、実行ファイルが自己解凍しやがった! セリス、ガメイルを連れて逃げろ! ここから先は、物理攻撃が効かない『バグ』の領域だ!」
俺はHP 0.5のまま、消えかかるコンソールを叩きつける。
世界がバグるなら、俺がパッチを当てるまでだ。




