第34話:事後処理(ポストモーテム)と、隠された「バックドア」
「金猫商会」の倉庫内。先ほどまでのスパム広告の嵐が嘘のように、今は静寂と焦げ臭い匂いだけが漂っている。
俺は鉛のシートに包まったまま、床に大の字になっていた。
「レイジ殿、死ぬな! まだHPは……0.12残っているな!」
セリスが慌てて俺の口に、最低ランクの「薄いポーション」を流し込む。
喉を焼くような安物の味がして、俺の意識が少しだけ鮮明になった。
「……ふぅ。セリス、ポーションの味まで『低速回線』並みに渋いな……」
俺はよろよろと起き上がり、腰を抜かしたままの商会主人、ガメイルを見下ろした。
彼の前には、先ほど俺が(這いずりながら)書き殴った「事故報告書兼、損害賠償請求書」が置かれている。
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インシデント報告:金猫商会スパム暴走
【原因】
終了条件(Break)のない再帰関数の実行。
物理層(水晶球)への過負荷による熱暴走。
【被害】
近隣住民への視覚的・物理的ノイズ汚染。
勇者(重装歩兵)の盾の耐久値減少。
筆者の精神的苦痛および生命維持コスト。
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「こ、こんな額……払えるわけがない! 商会が潰れてしまう!」
ガメイルが震える指で請求書を指差す。
「払えないなら、現物支給で構わない。あんた、この暴走した『自動反復』の術式、どこで手に入れた?」
俺の問いに、ガメイルの顔が引きつった。
「それは……北の遺跡で見つかった古文書から書き写したもので……。安上がりで効果絶大だと聞いたんです」
「安上がりなシステムには、必ず『裏』があるんだよ」
俺は鉛のシートを剥ぎ取った水晶球を指差した。
その台座の裏側、普通なら見逃すような微細な魔力刻印――。
「セリス、ここを剣の先で軽く突いてみてくれ」
セリスが言われた通りに突くと、カチリと音がして隠しスロットが開いた。
中から出てきたのは、禍々しい赤色の「小さな魔石」。
「これは……! 呪いの魔石か?」
セリスが眉をひそめる。
「いや、もっと性質が悪い。『バックドア』だ。この水晶が暴走して魔力を垂れ流せば流すほど、そのエネルギーがこの石を通じて『どこか』に転送される仕組みになっていたんだ」
つまり、ガメイルは宣伝をしていたつもりで、実は巨大な「魔力のボットネット」の一部として利用されていたわけだ。
「……誰かが、意図的にこの暴走を仕組んだということか?」
セリスの表情が騎士のそれに変わる。
「ああ。金猫商会は踏み台にされただけだ。ガメイル、あんたにこの術式を教えた『遺跡調査員』とやらの特徴は?」
「え、ええと……灰色のローブを着た、顔の見えない男でした……。そうだ、彼は『世界のラグを解消する』とか何とか、奇妙なことを言っていました!」
「世界のラグ……?」
俺は嫌な予感がした。
この世界のシステムそのものを「最適化」しようとしている奴がいる。それも、既存のデータを消去してでも。
「レイジ殿、これはただの商売トラブルでは済まないかもしれんな」
「ああ、大規模なサイバーテロの予兆だ。……だが、その前に」
俺はガメイルに手を差し出した。
「まずは、あんたの商会にある『未鑑定の魔導具』を全部見せてもらおうか。それが、今回の俺の作業費(デバッグ代)だ」
ガメイルは泣きながら、倉庫の奥にある秘密のコレクションルームの鍵を開けた。
今の俺のHPは低いが、お宝を見つけた時の「好奇心」だけは最大値している。
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【現在のパーティ状況】
*レイジ:HP 0.5(回復中) / 状態:強欲モード
*セリス:HP 100% / 状態:正義感の空回り




