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第29話:忘れ物のアーカイブ、あるいは温かいガラクタ

「404」の向こう側は、危険なダンジョンというよりは、巨大な「遺失物保管所」のようだった。


床には誰かの片方だけの手袋、子供が失くしたであろう木彫りの人形、宛先不明の手紙の束、そしていつかの時代の硬貨などが、重力を無視してふわふわと漂っている。


「ここは……何?」

セリスが浮遊する古びたリボンに触れる。リボンは温かな光を帯びていた。


「『参照リファレンスを失ったオブジェクト』の吹き溜まりだ」

俺は慎重に足元を確認しながら説明した。

「本来なら削除デリートされて消えるはずだったデータが、バグやエラーで処理落ちして、ここに溜まっていたんだな。いわば、世界のゴミ箱であり、同時に宝物庫だ」


奥に進むと、漂流していた調査員を発見した。

彼は空間に浮かぶ無数の手紙に見惚れていたようで、俺たちに気づくと慌てて敬礼した。

「あ、あの! 申し訳ありません! ここがあまりに不思議で、時を忘れてしまい……」

怪我はないようだ。時間の流れも外とは違うらしい。


「無事で何よりだ。……おや?」

俺は、調査員の足元に転がっている一冊のノートに目を留めた。

表紙には見覚えのある、下手くそな手書き文字。


『開発進捗メモ v0.9』


「まさか、あの開発者の……」

俺は震える手でそれを拾い上げた。中を開くと、ソースコードの走り書きに混じって、個人的な独り言が記されていた。


『納期がヤバい。バグが取れない。でも、NPCの行動ルーチンを見ていたら、癒やされた。彼らは予想外の動きをする。まるで生きているみたいだ』

『この世界が、いつか俺の手を離れても、愛される場所になりますように』


読み進めるうちに、目頭が熱くなった。

開発者の亡霊として戦った時の「絶望」だけじゃない。彼には確かに、この世界への「愛」があったのだ。それがエラー処理の狭間で、こうして消えずに残っていた。


「レイジ、泣いてるの?」ミナが覗き込む。


「……埃が目に入っただけだ。ここ、掃除が行き届いてないからな」

俺はノートを丁寧に閉じ、ジャケットの内ポケットにしまった。


「これは、俺が預かる。この世界を作った男の、忘れ物だからな」


ガラクタと未処理データが漂う「404」の部屋。

それは恐怖の空間ではなく、誰かの想いが形を変えて残る、優しいアーカイブだったのだ。

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