第28話:ガタガタ道のエラー処理と、白紙の向こう側
王家の特別馬車といえど、北の山の悪路(未舗装のポリゴン)はHP1の俺にとって地獄のダンジョンだった。
「――っ、痛てててて! おい御者! 今、小石を踏んだだろ!? その振動が俺の腰椎にダイレクトな衝撃を与えているんだぞ!」
クッションに埋もれた俺が悲鳴を上げるたび、馬車は徐行を強いられた。
通常の冒険者なら2時間で着く道のりを、たっぷり5時間かけて、俺たちはようやく問題の遺跡に到着した。
「やっと着いた……。移動だけでHPの半分を持っていかれた……」
セリスとミナに両脇を支えられ(介護され)、俺は馬車を降りた。
遺跡の入り口には、騎士団が厳重なバリケードを張っていた。その奥、岩肌に埋め込まれるようにして、問題の「扉」があった。
扉の表面には、風化して読み取れない古代文字と、中央に赤く光るルーン文字――『404』が浮かんでいる。
「これね。魔力をぶつけても、すり抜けるだけで反応しないのよ」
ミナが杖で扉を小突くが、切っ先は扉の表面に波紋を作るだけだ。
「魔力判定も物理判定もない。『テクスチャだけが存在している』状態だ」
俺はよろよろと近づき、懐からチョークのような白い石を取り出した。魔力を含んだ『記述石』だ。
「どうするの、レイジ?」エルダが心配そうに覗き込む。
「今から、俺が強制的に『道しるべ』を書く。サーバー(世界)に対して、『この扉の行き先はここだ』と定義し直すんだ」
俺は扉の前の地面に、数式とルーンを組み合わせたリダイレクト(転送)コードを書き込み始めた。
301 Redirect... Permanent Move... Target Location...
「見えた。微かだが、座標データの残骸が残ってる。……おいおい、とんでもない場所に飛ばそうとしてたな」
俺が最後の文字を書き終え、コンソールに見立てた空中の点を指先でタップするイメージをした瞬間。
ごぅん、と低い音がして、扉の赤い文字が緑色の『200(OK)』に変わった。
「ステータスコード変化……接続成功だ」
扉が音もなく開き、先ほどまでの「何もない白」ではなく、薄暗い回廊が姿を現した。
「開いた! すごい、レイジ!」
「喜ぶのは早い。中に入って、迷子の調査員と、ついでに『迷子になったデータ』を回収するぞ。……あ、俺は絶対に先頭を歩かないからな。トラップ一つでゲームオーバーだから」
情けない宣言と共に、俺たちは「存在しなかったはずの場所」へと足を踏み入れた。




