第27話:騎士団長の緊急依頼と、リンク切れの迷宮
「レイジ殿、すまないが至急、相談に乗ってほしい案件がある」
平穏な喫茶店『ソースコード』の空気を破ったのは、鎧をガシャガシャと鳴らして入店してきた、王都騎士団の副団長ガレインだった。セリスの元上司にあたる堅物だ。
俺はカウンターの奥でコーヒー豆の選別(欠陥データの弾き出し作業)を止めた。
「副団長が直々にか。……北の山で見つかったという『404』の件か?」
「耳が早くて助かる。その通りだ」
ガレインは重苦しく頷き、カウンターに一枚の地図を広げた。
「先日、遺跡調査隊が古い石碑の下に隠し扉を発見した。だが、その扉を開けると……そこには『何もない』のだ」
「何もない? 暗闇ということですか?」
エルダがお冷を出しながら尋ねる。
「いや、違う。壁も、床も、天井もない。白とも黒ともつかぬ虚空が広がっているだけだ。そして、そこに踏み込んだ調査員が一人、戻ってきていない」
ガレインの言葉に、俺は確信を持って頷いた。
「典型的な『リンク切れ(Broken Link)』だな」
「リンク切れ?」
「ああ。本来そこに繋がっているはずの空間データ(マップファイル)が欠損しているか、あるいは移動先の参照アドレス(住所)が間違っている状態だ。扉は存在するが、行き先がない。調査員は『虚無』の隙間に落ちたんだろう」
「虚無……! 那須から生きて帰れるのか?」
ガレインが青ざめる。
「404(Not Found)なら、データ自体は消滅していない可能性が高い。単に『見つからない』状態になっているだけだ。俺なら、パス(経路)を再接続できるかもしれない」
「本当か!? だが、レイジ殿、貴殿の今の体は……」
ガレインが言いにくそうに俺の体を見る。
「ああ、HP1だ。遺跡までの山道でつまずけば死ぬし、気圧の変化で頭痛が起きれば行動不能になる」
俺はエプロンを外し、少しにやりと笑った。
「だが、これは俺が見過ごしてきたバグの残りカスだ。エンジニアとして、後始末をつける義務がある」
セリスが、既に愛剣を背負って準備を整えていた。
「レイジが行くなら、護衛は私がやる。副団長、彼を運搬するための特別仕様の馬車――揺れを極限まで抑えたエアサスペンション付きのやつを手配してください」
「は、運搬……? まあいい、王家の特別車両を用意させよう!」
こうして、俺は再び「現場」へと出向くことになった。戦うためではない。迷子になった空間を、正しい場所に繋ぎ直すために。




