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第15話:残響の評議と、最後の鍵

灯台と海上プラットフォームの戦いから日が経ち、王都には疲労と決意が混ざった静けさが戻っていた。公開リポジトリには新たな注釈が増え、監査チームは昼夜を問わずログを読み続けている。だが外部勢力の断片はまだ散在し、ARCHIVE-STEWARDやCORE-ADMINの名は断続的に浮かび上がる。俺たちは勝利の余韻に浸る暇もなく、次の一手を迫られていた。


評議会は公開審議を続け、市民代表と技術者、学者が交わす議論は時に激しく、時に痛切だった。補償と再発防止、そしてAWAKENの運用方針――どれも簡単には決まらない。エルダは目覚めた者たちの代表として声を上げ、被験体として扱われた者たちの生活再建を訴える。セリスは騎士団の立場から治安維持と市民保護を主張する。俺は技術的な現実を説明し、透明性と段階的封鎖の必要性を説いた。


だが評議会の裏側では、別の動きが進んでいた。灯台やプラットフォームで得たログを解析する中で、俺は一つの奇妙な断片を見つける。古い暗号化方式で隠された「最後の鍵」の存在だ。鍵は単なるアクセス情報ではなく、管理者会議の内部通信を復号するためのマスターシードに繋がる可能性があった。もしそれが本物なら、CORE-ADMINの上位ノードの一部を永久に封鎖できるかもしれない。


「最後の鍵か」セリスが呟く。彼女の声には期待と警戒が混じる。エルダは目を細め、被害者たちの顔を思い浮かべる。「それがあれば、私たちはもっと安全になれるの?」と彼女は問う。俺は答えを持っていなかった。鍵は危険と希望を同時に孕んでいる。使い方を誤れば、新たな暴力の道具になり得る。


解析は慎重に進められた。公開リポジトリの注釈とハニーポットの差分を突き合わせ、鍵の断片を再構成する。断片は世界中に散らばっており、古い図書館の磁気テープ、港の古いログ、そして灯台の残骸に微かな痕跡を残していた。再構成の過程で、俺はある人物の署名に行き当たる――かつてルシードと協働していた研究者の名だ。彼女は既に評議会の外に身を隠しているという噂があった。


「彼女が鍵を持っているのかもしれない」俺は言った。だが同時に、疑念が胸をよぎる。人は変わる。かつての協力者が今や別の目的のために動くこともあり得る。評議会は公開と法の手続きを重視するが、鍵の回収は法の枠を超えた行動を要求する可能性がある。俺たちは選択を迫られた。


結局、俺たちは二手に分かれることにした。セリスと騎士団は公的な手続きを進め、評議会の承認を得て段階的封鎖を続ける。一方で、俺とエルダ、そして数名の信頼できる技術者は非公式に鍵の所在を追う。理由は単純だ。時間だ。外部勢力は再編を急ぎ、鍵が再び散逸すれば、我々の努力は水泡に帰す。


追跡は王都の裏通りから始まった。古い研究所の倉庫、忘れられた学会の地下室、そして海辺の小さな島の廃屋――断片は次第に線になり、線は一点へと収束していく。最後に辿り着いたのは、かつてルシードと共に研究をしていた女性、ミナの隠れ家だった。彼女は鍵を持っていたが、表情は硬く、目には深い疲労が宿っていた。


「なぜ隠していた?」エルダが問い詰める。ミナは静かに答えた。「私は鍵を守っていた。だが守ることは同時に囚われることでもあった。管理者たちは鍵を使って世界を編む。私はそれを止めたかった」彼女の声には後悔と決意が混じる。だがその手には、鍵の一部が入った小さな金属筒が握られていた。


交渉は短く、しかし緊張に満ちていた。ミナは鍵を渡す代わりに、AWAKENの運用に関する厳格な条件を要求した。彼女は技術的な安全装置と市民参加の監査プロトコルを組み込むことを望んだ。要求は理にかなっていたが、実行には評議会の承認が必要だ。俺たちは選択の重さを再び噛み締める。


結局、鍵は一時的に預かる形で合意された。ミナは鍵の一部を我々に託し、残りは彼女自身が管理するという条件だ。評議会に戻れば、公開と法の手続きを通じて鍵の扱いを正式に決めることができる。だがその夜、俺は一つの違和感を拭えなかった。ミナの瞳の奥に、まだ何かが残っている――恐れか、あるいは別の計算か。


夜明け前、俺たちは王都へと戻った。鍵の一部は安全な場所に保管され、評議会には非公式の報告がなされた。セリスは疲れた顔で俺を見て言った。「これで終わりではない。だが一歩は進んだ」エルダは静かに頷き、被害者たちのための次の支援計画を口にした。俺はポケットの中で空虚を確かめ、そこに新たな責務の重さを感じた。


だが夜の帳が下りると、遠くの海で微かな青い脈動が再び走った。ARCHIVE-STEWARDの名は消えず、CORE-ADMINの影は薄れない。鍵を手に入れたことで我々は有利になったが、同時に標的にもなった。選択の連鎖は続く。俺たちは今、法と倫理、力と責任の狭間で歩みを進めている。最後の鍵は手に入れた――だがそれが何を開くのか、まだ誰も知らない。

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