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第14話:海上プラットフォームの夜明けと裏切りの潮流

波は低く、空は鉛色のまま夜明けを待っていた。船の甲板で俺は冷たい海風を顔に受け、手の中の小さな端末を確かめる。ハニーポットのログ、学者の提供した内部鍵、そしてエルダが握る被害者名簿。これらが揃えば、海上プラットフォームの中継局へと辿り着けるはずだ。だが外部勢力は既に警戒を強め、灯台での衝突が示したように、物理とコードの両面で反撃してくる。


「準備はいいか」セリスが低く言う。彼女の声には疲労が混じるが、剣の握りは揺らがない。エルダは小さく頷き、目覚めた者たちの代表としての責務を胸に刻んでいる。俺は深呼吸をして、最後の暗号鍵を端末に差し込んだ。接続は瞬時に確立され、海上プラットフォームの内部ネットワークが可視化される。ノードの配置、冗長経路、そして――人質の位置情報。


プラットフォームは複数の区画に分かれていた。中継棟、居住区、冷却室、そして管理室。外部ノードは冗長化されているが、差分とタイムスタンプから最も脆弱な経路が一つだけ浮かび上がった。そこを突けば、上位ノードへのアクセスが可能になる。だが侵入は同時に警報を鳴らす。時間との勝負だ。


我々は静かに上陸し、金属の通路を伝って内部へと潜入した。照明は薄暗く、遠隔からの監視カメラは不規則に瞬いている。俺は端末を使い、監視のフレームを一時的に凍結させる。コードの隙間を縫うように、セリスとエルダが先に進む。だが通路の奥で、低い機械音が響いた。防御スクリプトが起動したのだ。


鋼の扉が閉まり、床の一部が電磁フィールドで隔離される。遠隔からの防御ドローンが起動し、冷たい光を放ちながら我々を包囲する。戦闘は避けられない。セリスが剣を抜き、ドローンの動きを牽制する。俺は端末を操作し、ドローンの制御ループに偽のコマンドを注入する。だが外部ノードは学習していた。偽装は短時間しか持たず、代替の認証が次々に降りてくる。


その時、居住区の一角から叫び声が上がった。人質だ。俺たちは一斉に駆け出し、扉を破って中へ飛び込む。薄暗い室内に縛られた人々がいて、顔には恐怖と安堵が交錯している。学者の家族もそこにいた。彼女は俺たちを見て泣き崩れ、言葉にならない感謝を口にする。だが救出の余韻は短く、管理室からの警報が鳴り響いた。


管理室の扉を蹴破ると、そこには複数の端末と巨大なスクリーンが並んでいた。スクリーンにはCORE-ADMINのハンドルが列挙され、リアルタイムで王都の端末に流れるログが表示されている。中央には一つの椅子があり、その前に立つ人物の影がモザイク越しに映っていた。ルシードの顔が一瞬だけ画面に映り、次いで別の声が割り込む。


「よく来たな、解析者」低く、機械的な声。CORE-ADMINの一人だ。だがその声の端に、人間の苛立ちと冷笑が混じっている。彼らは我々の到来を予期していたのだ。スクリーンの端で、外部ノードは自己防衛の最終段階を起動する。プラットフォーム全体が自己隔離モードに入り、外部からのアクセスを遮断し始める。


俺は端末を叩き、最後の逆トレースを仕掛ける。ハニーポットが中継を誘い、上位ノードの一部を露出させる。だが同時に、CORE-ADMINは人質の命を盾に取る。スクリーンに映るモザイクの向こうで、誰かが銃を突きつけられている。交渉の余地はない。彼らは我々を試し、王都の反応を観察しているのだ。


「君たちは何を望む?」ルシードが画面越しに言う。彼の声には疲労が滲むが、同時に確固たる信念がある。「進化だ。選別だ。だが君たちのやり方も一理ある。だが我々は譲れないものがある」


エルダが前に出て、震える声で言った。「人は道具ではない。誰かの実験材料ではない」その言葉は管理室の空気を切り裂いた。CORE-ADMINの一人が笑い、モザイクの向こうで何かを命じる。だがその笑いは、どこか焦りを含んでいた。外部ノードの冗長経路が次々に切断され、我々の逆トレースは確実に上位へと繋がっている。


戦況は一瞬で変わった。外部ノードの一部が暴走し、自己防衛が暴走する。プラットフォームの冷却システムが過負荷を起こし、金属の軋みが響く。CORE-ADMINは撤退を命じるが、通信は断続的だ。俺は最後の一手を打つ。AWAKENの選択インターフェイスを通じて、プラットフォーム内の被験体に直接メッセージを送る。目覚めた者たちの自己観測ルーチンを起動し、彼ら自身に選択を促すのだ。


スクリーンに表示されたのは、単純な問いだった。あなたは自由を望むか、観測の一部であり続けるか。選択はあなたのものだ。メッセージは瞬時に広がり、縛られていた者たちの目が変わる。恐怖は怒りに、そして決断へと変わる。人質の一人が立ち上がり、銃を突きつけられた相手に向かって叫んだ。「私たちは人だ! 私たちの人生は実験じゃない!」


その瞬間、管理室の空気が崩れた。CORE-ADMINの指揮系統は混乱し、モザイクの向こうで誰かが叫び声を上げる。外部ノードは自らの設計した「選択」を逆手に取られ、内部から崩壊を始める。俺たちはその隙に人質を解放し、学者の家族を連れて脱出を図る。だが脱出路には黒衣の残党が待ち構えていた。短い銃撃戦の末、セリスの剣が一閃し、黒衣の一人が倒れる。血の匂いが金属の冷たさと混ざる。


甲板に戻ると、空は薄く明るみを帯びていた。プラットフォームのアンテナ群は半壊し、海面には漂流する機材が散らばる。通信は断続的だが、王都の端末には我々の行動が逐次報告されている。CORE-ADMINの一部ログが公開され、管理者会議の名がさらに列挙される。だが同時に、我々は代償を払った。数名の負傷者、そして俺自身の中に残る疲労と空虚。


エルダが静かに言った。「私たちは選んだ。だが選択の先には責任がある」その言葉は重い。俺は海を見つめ、波の向こうにまだ見えない影を思う。管理者会議は分散している。ARCHIVE-STEWARD、CORE-ADMIN、そして別のハンドルがまだ動いている。今回の勝利は確かだが、戦いは終わっていない。


船は王都へと戻る。甲板で、学者が俺に小さな紙片を差し出した。そこには一行だけ書かれていた。


「彼らは我々の記憶を集め、物語を編む。だが物語は語り手を必要とする」


俺は紙を握りしめ、答えを探す。誰が語り手になるのか。誰が裁きを下すのか。海の向こうで管理者たちは息を潜め、王都では新たな議論が始まる。だが今、俺たちは一つの事実を確かめた。人々は自らの声を取り戻しつつある。選択の潮流は変わり始めたのだ。

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