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第13話:アーカイブの守り手と裏切りの証明

灯台の戦いから一週間が過ぎ、王都は静かな緊張の中で再編を始めていた。公開リポジトリには市民の手で注釈が付けられ、監査チームは昼夜を問わずログを読み解いている。だが、海の向こうからの脈動は完全には消えず、ARCHIVE-STEWARDの名が断続的に浮かび上がる。俺たちは次の標的を追うため、情報の断片を繋ぎ合わせる作業に没頭していた。


「痕跡はここで途切れている」セリスが端末を指差す。彼女の指先には疲労が滲むが、目は鋭い。ハニーポットが拾ったパケットのメタデータを逆算すると、ARCHIVE-STEWARDは古い図書館のデータアーカイブを経由している可能性が高い。図書館は公的な場所だ。そこに隠れ家があるとは信じがたいが、外部勢力は公共の網を巧妙に利用する。


俺はエルダと共に図書館へ向かった。書架の間を歩くと、紙の匂いと人々の囁きが混ざる。表向きは保存と研究の場だが、地下のアーカイブ室には古い磁気テープと冷却ラックが並んでいる。そこに設置された端末群の一つが、外部ノードの中継として機能している痕跡を示していた。だが端末は巧妙に偽装され、通常の監査では検出されない。


「ここで何を守っているのか」エルダが呟く。彼女の声には怒りと哀しみが混じる。目覚めた者たちの記憶は断片的にしか戻らないが、誰もが自分の人生がデータとして扱われたことに深い傷を負っている。俺たちはその傷を癒すために、真実を掘り起こす必要がある。


作業は慎重を要した。図書館の監視は市民の自由と直結するため、強硬手段は避けねばならない。俺は読み取り専用のプローブを差し込み、差分解析で中継の存在を露呈させる。すると、端末のログに小さな反応が返ってきた。


【Ping: ARCHIVE-STEWARD / Response: ACK】


反応は短く、だが確かだった。直後、図書館の照明が一瞬暗くなり、遠隔からのアクセスが試みられた痕跡がログに残る。誰かが我々の動きを察知したのだ。だが同時に、別のログ行が浮かび上がった。そこには、内部者の署名が含まれている。


「内部者……?」セリスの声が低くなる。図書館の職員の一部が、外部勢力と接触していた可能性がある。裏切りはいつも最も近い場所から始まる。俺は冷静にログを追い、署名の断片を照合した。結果は予想外だった。


署名は、評議会の一員であり、AWAKENの公開を支持していた学者のものと一致した。彼女は公開の旗手として市民の前に立ち、被害者支援の委員会にも名を連ねている。だがログは冷徹だ。彼女は外部ノードに対して定期的にメタデータを中継していた。動機は不明だが、事実は事実だ。


「裏切りか、あるいは二重のゲームか」エルダが言う。彼女の瞳には失望が宿る。俺は選択を迫られる。告発して評議会を揺るがすか、それとも証拠を集めて慎重に対処するか。公開は正義だが、無実の人を晒すことは別の暴力になる。


俺はまず証拠を固めることにした。ハニーポットを再配置し、内部者の端末に偽のメタデータを流し込む。反応を観察すれば、彼女が能動的に情報を送っているのか、あるいは外部に脅されているのかが分かるはずだ。作戦は成功し、端末は即座に外部へとデータを中継した。だがその中継には、もう一つの署名が付随していた――CORE-ADMINのハンドルだ。


「管理者会議が直接関与している」セリスの声が震える。事態は単純な裏切りではなかった。評議会の内部に浸透したネットワークが、外部勢力と連携して王都の情報を操作していたのだ。目的は不明だが、規模は想像以上に大きい。


その夜、俺たちは学者の自宅を訪ねた。彼女は驚きと恐怖の入り混じった表情で迎えた。問い詰めると、彼女は涙ながらに語り始めた。外部勢力は彼女の家族を人質に取り、協力を強要していたという。彼女の行為は自発的な裏切りではなく、脅迫の結果だった。真実はいつも灰色だ。


「助けてくれ」彼女は震える声で言った。「私は彼らを守るためにやった。だがもう耐えられない」その言葉は重い。俺たちは選択を迫られる。彼女を公に晒して裁くのか、それとも彼女を守り、外部勢力の人質を救うために動くのか。


決断は即座に下された。公開の正義だけでは解決しない。俺たちはまず人質を救い、外部ノードの中枢へと繋がる手掛かりを断つ必要がある。学者は協力を約束し、我々に内部のアクセス情報を提供した。だがその代償として、彼女は評議会での立場を一時的に退くことを要求された。彼女はそれを受け入れ、静かに鍵を渡した。


翌朝、我々は新たな作戦を開始した。目標は海上プラットフォームの一角にある中継局だ。そこを押さえれば、CORE-ADMINの一部経路を断てる可能性がある。だが外部勢力は既に警戒を強めている。灯台での代償は、我々に慎重さと決意を同時に教えた。


出発前、エルダが俺の肩に手を置いた。「あなたはいつも危険を選ぶ」彼女は小さく笑い、だがその瞳は真剣だ。「でも、私たちはあなたと共に行く」その言葉は重く、暖かかった。俺はブローカーキーを失った手の感触を確かめ、空虚を力に変える決意を固めた。


海へ向かう船の甲板で、王都の輪郭が遠ざかる。波は冷たく、空は鉛色だ。外部の影は深いが、我々の連帯はそれに対抗する力を持っている。管理者会議の名は晒されたが、その背後にはまだ多くの顔が隠れている。次の一手は、救出と暴露の同時進行だ。コードと人の命が交差する航海は、今まさに始まろうとしていた。

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