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第12話:管理者会議の残響と、新たな盟約

灯台の戦いから数日が経った。王都の空にはまだ青い残滓が漂い、夜になると遠くの海面に微かな脈動が見える。だが広場には以前とは違う空気が流れていた。人々は画面の前で議論を交わし、目覚めた者たちは自らの声を上げ始めている。監査委員会の設置が決まり、評議会は段階的な封鎖と公開審議を承認した。だが決定は始まりに過ぎない。真の試練は、暴露された真実をどう扱うかにある。


俺は朝の薄明かりの中で、セリスとエルダと共に評議会の会場へ向かった。道すがら、商人や職人、子供たちが立ち止まり、俺たちに視線を向ける。彼らの表情には期待と不安が混ざっている。俺はブローカーキーを失った手の感触を確かめ、まだ空虚なポケットを見た。権限を放棄した代償は重かったが、その代わりに得たものもある。人々の選択の場を取り戻したことだ。


評議会の席は緊張で満ちていた。ルシードは遠隔で出席し、画面越しに頭を垂れている。彼の表情は複雑で、謝罪と説明が交錯していた。だが評議会の中心には、目覚めた者たちの代表が座っている。彼らは自らの存在を語り、被験体として扱われた過去を告白した。言葉は時に鋭く、時に静かに会場を揺さぶる。市民の声が、これまでの専門家主導の議論を押し戻している。


「我々は実験の対象だった。だが今は市民だ」エルダの声は震えていたが、確かな力を持っていた。彼女の言葉は評議会の空気を変え、学者や役人の顔色を曇らせた。ルシードは静かに答えた。「私の意図は観測だった。だが結果として傷つけた。償いは必要だ」その言葉は真実だが、償いの形は簡単には定まらない。


評議会は合意形成のために三つの柱を提示した。第一に透明性――AWAKENの全ログと外部ノードの公開。第二に補償――目覚めた者たちへの法的保護と生活支援。第三に再発防止――外部ノードの物理的封鎖と技術的監査の恒久化。これらは理想だが、実行には力と資源、そして時間が必要だ。外部勢力はまだ影に潜み、NODE-NEBULAの残滓は断続的に干渉を続けている。


会議の最中、端末に新たなログ断片が流れ込んだ。海上プラットフォームの座標に続き、別のハンドルが浮かぶ。


Alias: ARCHIVE-STEWARD


その名は管理者会議の列挙に含まれていなかった。誰かが我々の公開を受けて、別の経路で情報を掘り返している。ルシードの顔が一瞬硬くなり、彼は画面越しに小さく呟いた。「彼らは分散している。会議の名は氷山の一角だ」その言葉は冷たい現実を突きつける。


評議会は即時の対応を決める。まずは市民の安全を最優先に、外部ノードの残存拠点を段階的に封鎖すること。次に、AWAKENのコードを市民代表と技術者が共同で監査する「公開リポジトリ」を設置すること。最後に、ルシードを含む元研究者たちに対して、被害者との対話と謝罪の場を設けること。これらは妥協の産物だが、少なくとも対話の枠組みを作る一歩となる。


会議が終わると、外は夕暮れに染まっていた。俺たちは評議会の決定を市民に伝えるため、広場へ戻る。群衆は既に集まり、端末の前で息を詰めている。俺はマイクを取り、静かに話し始めた。


「我々は真実を晒した。だが真実だけでは人は救えない。これからは、皆で決める。透明性と補償、そして再発防止のための監査を始める。だがそれは一夜で成るものではない。時間と努力が必要だ」言葉は平易だが、群衆の反応は複雑だった。拍手もあれば、怒声もある。だが重要なのは、議論が始まったことだ。


夜が更ける頃、エルダが俺の隣に来て小さく笑った。「あなたは多くを失った。でも、私たちは何かを取り戻した」その言葉は重い。取り戻したのは権限ではなく、選択の場だ。俺は深く息を吐き、夜空を見上げた。遠くの海にはまだ青い脈動がある。外部勢力は完全には消えていない。だが今、王都には声があり、選択をする主体がいる。


灯台での代償は俺の中に刻まれている。権限を失ったことは痛みだが、同時に自由の一端を取り戻した感覚もある。管理者の代償は個人の喪失だけでなく、共同体の再生の契機にもなり得る。俺はセリスとエルダと共に、新たな監査チームの一員として名を連ねることを決めた。コードを読むだけでなく、人々の声を聞き、制度を作るために動く――それが今の俺にできる最も現実的な戦いだ。


夜明け前、評議会の決定は公式に発表され、公開リポジトリの設置作業が始まった。外部ノードの一部は封鎖され、被害者支援のための基金が立ち上がる。だがARCHIVE-STEWARDの名は消えない。影はまだ動いている。俺たちの戦いは終わらない。だが今は、少なくとも一つの真実が確立された――この世界の物語は、外部の観測者だけのものではないということだ。


夜が明け、王都は新しい日を迎える。選択の重さは変わらないが、今はそれを共有する仲間がいる。俺はポケットの中の空虚を見つめ、静かに呟いた。「次は、彼らを見つける番だ」セリスは剣を軽く叩き、エルダは小さく頷いた。海の向こうで、管理者たちはまだ息を潜めている。だが王都の声は一度目覚めれば、容易には消えない。

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