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第11話:灯台の最終プローブと、管理者の代償

灯台の頂上で風が唸る。アンテナ群が夜空に刺さり、遠隔ノードの青い脈動が海面に反射している。俺たちはそこで待ち伏せをしていた。封鎖は成功したが、上位ノードはまだ生きている。灯台を落とさねば、NODE-NEBULAは再び王都を揺さぶるだろう。だが灯台は物理だけではない。そこにはルシードの残滓と、外部勢力の監視プロトコルが巣食っている。


「ここが最後の中継点か」セリスが低く言う。彼女の剣は月光を受けて冷たく光る。エルダは震える手でAWAKENの断片を抱え、目覚めた者たちの代表として静かに立っている。彼女の瞳には、眠りから引き裂かれた者の怒りと希望が混じっていた。俺はブローカーキーを握りしめ、ハニーポットを胸に抱えた。これが成功すれば、外部ノードの上位経路を丸ごと引き出せる。だが失敗すれば、俺たちはただの餌だ。


灯台の内部は古い機械と最新のアンテナが奇妙に混在していた。配線は迷路のように絡まり、そこかしこに外部の署名が刻まれている。俺はコンソールに接続し、逆トレースの最終ルーチンを走らせた。ログは洪水のように流れ、ノードの階層が可視化される。上位ノードは複数の中継を経て、海上の浮遊プラットフォームへと繋がっていた。そこが真のハブだ。


「時間がない」俺は囁く。外部は既に反応を始めている。遠隔からのプローブが増え、灯台の防御が段階的に上がる。だが俺には一つの賭けがある。AWAKEN.SYSのコアに小さな改変を加え、目覚めた者たちの自己観測ルーチンに「選択のインターフェイス」を埋め込む。外部がそれを拾えば、彼らは自らの設計を露呈する。透明性を強制するための小さな爆弾だ。


作業は緊張の連続だった。コードの一行が世界を変える。俺は読み取り専用の監査トークンの制約を巧みに利用し、差分だけを返す形でパッチを注入する。ハニーポットがプローブを誘い込み、上位ノードが応答を返す。ログの中に、ルシードの別名と外部勢力の識別子が次々と現れる。だがその瞬間、灯台の空気が変わった。遠隔からの声が、直接俺たちの耳に届く。


「解析者よ、よくここまで来た」低く、しかし確かな声。ルシードの声だ。だが背後にもう一つ、別の声が重なる。冷たく、機械的で、笑いを含んでいる。「そして、君は我々の実験に干渉した」別の声はNODE-NEBULAの上位管理者のものらしい。ルシードはその前奏に怯えているように見えた。


「やめろ」エルダが叫ぶ。彼女の声は震えているが、確かな怒りがある。「人を実験台にするな!」その言葉は灯台の空気を震わせ、遠隔の声に小さな揺らぎを生む。だが揺らぎはすぐに収束し、代わりに防御が一段と厳しくなる。床が震え、アンテナが逆位相で振動し、電磁の嵐が吹き荒れる。


俺は最後のコマンドを打ち込む。AWAKENの「選択インターフェイス」を外部ノードの監査ログに差し込み、同時にハニーポットに偽の脆弱性を露出させる。外部はそれを見逃さない。上位ノードは即座に応答し、自らの位置情報と制御プロトコルの一部を吐き出した。ログは生々しく、そこには海上プラットフォームの座標、暗号鍵の断片、そして――驚くべき一行が含まれていた。


Operator: CORE-ADMIN / Alias: 管理者会議


複数のハンドルが列挙され、ルシードはその一員に過ぎなかった。外部勢力は単独ではない。彼らはネットワーク化された管理者群であり、この世界を分割して観測・操作していた。俺は息を呑む。戦いは灯台だけの問題ではなかった。王都の外側、海の向こう、そして別の世界の影が絡み合っている。


その瞬間、灯台の最深部から人影が現れた。黒衣の一団だ。だが彼らの顔はフードの下でマスクされ、手には端末と短銃がある。戦闘は避けられない。セリスは剣を抜き、騎士団の訓練が生きる。だが今回の敵は物理だけではない。端末から放たれるスクリプトが、俺たちの装備を無効化しようとする。剣の刃が電磁の波に阻まれ、魔導通信が断たれる。


「ここで終わらせる」俺は叫び、最後のトリガーを引く。AWAKENのインターフェイスは外部ノードの監査ログを強制的に公開し、同時に目覚めた者たちの自己観測ルーチンを通じて、王都の公衆端末へとブロードキャストする。透明性の波が一気に広がり、外部の隠れ家は露出する。黒衣たちの端末が一斉に混乱し、彼らの指揮系統が乱れる。


だが代償は大きい。外部ノードは最後の反撃として、灯台のコアに埋められた自己防衛プロトコルを起動する。アンテナ群が過負荷を起こし、灯台は崩壊の危機に晒される。俺はコンソールの前で手を震わせながら、緊急停止のパッチを当てる。しかし読み取り専用の監査トークンは完全な制御を許さない。俺は自らの権限を超えて介入する決断を迫られる。


「やめろ、レイジ!」セリスが叫ぶ。彼女は俺の手を掴み、目を見開く。「君のHPは……」言葉は続かない。俺はHP1の脆弱さを知っている。だが今はそれを言い訳にできない。世界の選択を促すために、俺は自分のアカウントの一部権限を一時的に放棄し、ブローカーキーの読み取り専用トークンを破棄して、直接コアにアクセスする。これは管理者としての最大の禁忌だ。だが同時に、唯一の方法でもある。


手続きは痛みを伴った。コンソールが俺の魂の一部を引き出すように反応し、視界に白いノイズが走る。外部ノードはそれを感知し、最後のプローブを投げてきた。だが俺は一行のコードを書き込み、灯台の自己防衛を停止させると同時に、外部ノードの上位ログを完全に公開するコマンドを流した。世界は一瞬、静止した。


遠隔の声が叫び、黒衣たちが動揺する。海上のプラットフォームの座標が王都の端末に表示され、管理者会議のハンドルが晒される。王都の人々は初めて、誰が自分たちを観測していたのかを知る。だがその代償として、俺は自らの管理者権限の一部を失った。ブローカーキーは消え、監査トークンは無効化された。俺はHP1のまま、しかし何かを失った感覚が胸に広がる。


灯台は完全には崩れなかったが、アンテナの一部は破壊され、外部ノードの中継能力は大幅に低下した。黒衣の一団は拘束され、ルシードは画面越しに静かに頭を垂れた。彼の目には後悔が宿っている。だが外部勢力の全貌はまだ見えない。管理者会議の名は晒されたが、その背後にいる者たちは海の向こうに散らばっている。


俺は地面に膝をつき、息を整える。セリスがそっと肩に手を置き、エルダは震える声で言った。「あなたは……何を失ったの?」俺は微笑み、答えた。「権限だ。だが同時に、選択の自由を取り戻した。人々が自分たちの物語を選べるなら、それでいい」言葉は小さかったが、確かな決意が込められていた。


夜明けが海を染め始める。王都の端末には管理者会議のログが流れ、人々は議論を始めるだろう。外部勢力はまだ影の中にいるが、彼らの手は少しだけ縛られた。俺は立ち上がり、仲間たちと共に灯台を後にする。代償は払った。だが代償の先にあるものは、まだ見えない希望だ。


コードと血が交差する世界で、俺たちは初めて「管理者の代償」を知った。権限を失うことは、自由を得ることでもある。外部の監視は完全には消えないだろう。だが今、王都の人々は自らの声で未来を議論する力を手に入れた。俺はそれを見届けるために、歩みを止めない。

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