表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始める。ゆっくり、最悪へと。  作者: イニシ原
七章 過ぎ去った時は何のため?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/42

5話 勇者は、魔王を待つ……

 ……白い魔法使い、クロファルファス。

 俺は、しっかり覚えておくために声にした。


「なんじゃ、名前を覚えておったのか。まあ、じいさんで構わんがな」


「じいさん……何をしている?」

 さっきまで何かを作っていたはずだ。

 それは――元の「立方体の金属」に戻っていた。

「何か、面白い仕掛けでもあるのかい?」


「いや。ワシの魔法で動かすつもりじゃったのだがな」

 じいさんは肩をすくめる。

「結局、これもお主のために作ったものらしい。ワシにできたのは、ここまでじゃよ」


「そうか……」

 一つ、息を置いてから続ける。

「それじゃあ、申し訳ないんだが……山を下りてくれないか?」


「ほほぉ」

 じいさんは、どこか満足そうに笑った。

「このじじいの役目も、ここまでというわけじゃな。やっと終わった気がする」

 少しだけ、遠くを見る。

「このために、わざわざ生き返らせてもらえたのじゃろう。ありがとうよ、勇者くん」


 じいさんは、楽しそうに森の中へ消えていった。

 もっと話したいこともあった。

 けれど――今までの思い出だけで、十分だった。


「最後に見られてよかったよ」

 小さく、そう呟く。

「じいさんらしい……白い姿を」


 ***


「……エバガードさん」


 蔦のベッドに横たわる戦士さんは、

 前に見た時と、何一つ変わっていなかった。


「おお、驚かすなよ。名で呼ぶなんて珍しいじゃないか。どうした?」


「……山を下りてもらおうと思って」


「こんないい場所を、独り占めか?」

 戦士はそう言って、すぐに笑った。

「なんてな。冗談だよ」


 ベッドから立ち上がり、背伸びをする。

 バキボキと、無遠慮な音。


「まあ、わかるさ」

 少しだけ視線を逸らす。

「私はもう、勇者くんの仲間じゃないからな。役に立てそうもないし」

 戦士は一拍置いた。

「ただ――あいつらとなら、一緒に戦いたかった」


 どうやら戦士さんは、感じ取っていたようだ。

 嵐の前の――あの、妙な静けさを。


 彼は何も言わず、階段を踏みしめながら、山を下りていった。


 ***


 家には、誰もいなかった。

 ……いや、ひとりだけいる。


 凍っていたはずのノワが、

 なぜかその場で、くるくると踊っていた。


 近づくと、こちらに気づき、ぴたりと動きを止める。

 視線だけが合う。

 そのまま、実のようなものだけが、ぶらりと揺れた。


「その……ぶらーんとしてる実、くれるのかい?」

 問いかけると、ノワは、しっかり頷いたように見えた。


 俺は、そっと手を伸ばし、その実に触れた。

 真っ黒で、細部はよくわからない。


 けれど――

 その長細い棒状のものは、どう見ても、『鍵』だった。


 ……ポキッ。


 乾いた音を立てて折れた。

 割れたはずなのに、鍵は――

 そのまま、俺の手の中に収まっていた。


 どうやら俺は、この鍵の使い道がわかった。

 難しいことじゃない。


 手に持っているかどうかも、わからないほど軽い。

 そんな金属でできた鍵だ。


 じいさんが、ずっといじくっていた――

 あの立方体の金属。

 これに違いない。


 ……けれど。

 今の俺には、この鍵を使うべきかどうか、迷いが残っていた。


 君たちは、俺のために導かれ、育ったのか。

 それとも――

 すべては、勇者のためだったのか。

 ……彼女なのかもしれない。


 よし。

 もう、俺のわがままだけを通させてもらう。

 ここまで来て、最後まで育てないなんてできないからな。


 俺は、いつも腰にぶら下げていた革袋を外した。

 中に入っていた虹の種を、すべて取り出す。

 こうしておけば、もう袋の中で、勝手に増えることはないはずだ。

 地面に置いた後には、もう拾い上げることはしなかった。


「じゃあ、鍵を使ってみるよ」

 何気なく、ノワに声をかけた。

 返事はない。


 ノワは俺を見ていなかった。

 その視線は、ずっと遠くへ向けられている。


 ――立方体の金属。


 つられるように、俺も振り向いた。

 ――あっ。

 立方体の金属が、空を飛んでいた。

 最初は俺めがけて来るのかと思った。

 ぶつかる、そう身構えたほどだ。


 だが、それは、あり得ないほど、ゆっくりだった。

 風に乗るでもなく、意思を持つように進み、やがて――

 静かに、地へ降りた。


 それだけでは驚かなかった。

 でも、手の中それだけでは、驚かなかった。

 だが――手の中の鍵までもが、惹かれるように勝手に飛んだ。


 俺は、反射的に指を閉じることすら出来なかった。


 鍵穴など、なかったはずだ。

 少なくとも、俺の目には見えていなかった。


 けれど。

 そこに「元からあった」かのように、鍵は収まり――

 そして、ひとりでに回りはじめた。


 一回転。

 音もなく。


 立方体の金属は、滑らかにすべっていった。

 軋みも抵抗もない。

 内部から、大量の歯車が現れる。

 重なり合い、噛み合い、次々と動き出す。


 形が、次々と変わっていく。

 折れ、伸び、組み替わる。

 やがて、巨大な『時計柱』が出来上がった。


 そして、柱の下には、椅子がひとつあった。

 俺は何も考えずに、そこへ腰を下ろしていた。


「ありがとう……」


 俺の、わがままがわかっているのか。

 この椅子は、どこか魔王の玉座に似ていた。


 とりあえず、あとはここで待つだけだ。

 何だったら、永遠にここで――

 育っていく姿を、見ていたかった。


 でも、途中までなら……。


 ほんの少しだけ、目を閉じよう。

 魔王が来るまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ