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三題噺もどき4

秋の初め

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくよんじゅうはち。

 



 いつもより冷たい風が頬を撫でた。

 頭上には細い三日月が浮かび、優しく見下ろしている。

 星は所々に小さく輝き、時折雲に隠れてしまう。

「……」

 昼間こそまだ暑いのかもしれないが、夜は少しずつ秋らしくなっている。―ような気がする。若干の天気の悪さが、この冷たい風を運んでいるのかもしれないから、何とも言えない。

 でも、心地のいい風だとは思う。雨が降る直前のような感じもないし、さわやかな秋風という感じだ。まぁ、感覚の話なので、だから何とも言えないのだ。

「……」

 マンションホールから外に出て、歩いていく。

 なんだかんだと、久しぶりの散歩のような気がする。

 そうでもないだろうか……そんな記録をつけているわけでもないから、分からないな。

「……」

 毎日行うようにしていることは、数日しないだけでも久しく感じてしまうものだろう。

 調子が万全でない日が続いていて、心配性な同居人兼従者である、アイツに止められたり、単純に天気が悪かったりで行けていなかったからな。

「……」

 今日もまぁ、家を出るときにひと悶着あったのだが。

 まぁ、これだって息抜きのひとつで行っていることはアイツも分かっているし、籠りすぎるのもよくないと思ったのだろう。それに単純に運動不足になる。ただでさえ座りっぱなしの仕事をしているのだから、こういう時の運動はあまり欠かしたくはない。

 不安にさせるのは忍びないが、まぁ、最悪アイツは猫になってでもついてくるだろうから気にしなくていいだろう。

「……、」

 そう気づいて、なんとなく後ろを振り返ってみたが。

 そんな気配は一切なかった。まだ出てすぐだからな。

 それに今日はチーズケーキを焼くと言っていたから、すぐには出てこないだろう。アイツはチーズケーキを作る時はいつも以上に時間をかけて作るからな。私の好物だからだろうか……まぁ、そんな訳はないな。作り甲斐があるのだろう。

「……」

 さて、まぁ、それはさておき。

 今日はどこに行こうか……特に目的もなく歩いてもいいが、あまりあちこちに行ってもなぁ。比較的調子も戻りつつあるから、色々と歩き回りたい気分ではあるのだけど。

 下手に歩き回っていると何に巻き込まれるかわかったものじゃないからな。ただでさ今原因が全く分からない何かに絡まれている可能性があるのに。

「……」

 まぁ、久しぶりに公園にでも行くか。

 先日墓場は行ったばかりだし、そろそろ顔を出さないと拗ねるやつがいる。

 それにほとんどあそこに住み着いてしまった犬の相手もしないといけない。

「……」

 あの犬もそろそろ満足しないものかと思うのだが。

 いつまでも居座られても困るし、あの犬にとってもよくはない。

 かと言って放置しているわけにもいかずに、相手をしているのだけど。

「……」

 まぁ、それもそのうち時間が解決するだろう。

 案外今日行ったらもう居なくなっているかもしれないからな。

 それならそれで、問題はない。

「……」

 慣れた道を歩いていくと、公園にある大きな桜の木の頭が見え始める。

 春になればあれはピンクに染まり、夏になれば青々と茂る。

 そのうち葉がオレンジに染まり始めるだろう。

 そして冬になれば葉を落とし、次の準備を始める。

「……」

 よくよく見ればその緑の中に所々黄色が混じっていた。

 もう蝉の声も聞こえず、草むらの方から鈴虫のような音が聞こえるくらいだ。

 また冷たい風が吹く。

「……」

 ふと、頭上を見上げると、細い三日月が浮かんでいる。

 次に満月を迎えるころには、すっかり秋になっているかもしれない。

 その頃には、この面倒事かもしれない何かも、終わっていればいいが。

「……お前、」

 まぁ、とりあえずは。

 まだ居座っていた犬を満足させつつ、公園で話しでも聞いていよう。





「……おかえりなさい」

「ただいま」

「……公園に行くと犬臭いのはそういうわけだったんですね」

「なんだ、来てたならこっちにこれば良かったのに」

「……犬は苦手なんです」












 お題:チーズケーキ・不安・桜



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