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蠱毒の後宮妃  作者: 及川 桜
第八章 皇位継承権

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蠱毒の果てに待つもの


まだ太陽が沈みきらぬうちに、楊胤は離れの棟を訪れていた。


なぜここに足を向けたのか、自分でも分からない。ただ――顔が見たかったのだ。


「楊胤様、お帰りですか?」


 庭の樹のそばでごそごそと何かしていた仙霞が、ぱっと立ち上がる。


どうせ虫か毒草でも探していたのだろう。


 だが楊胤の顔を見た途端、仙霞は眉をひそめた。


「どうなさったのです。顔が真っ青です」


 楊胤は彼女に歩み寄ると、そっと肩に頭を預けた。


「……少しだけ、このままでいさせてくれ」


 言いようのない不安が、心を脆くする。


 ――皇帝になる可能性。


考えたこともなかったそれが、唐突に目の前にぶら下げられた。


 もちろん現実には可能性は低い。拒むことだってできる。


だが、帝の言葉に背けばどうなる? 


逆らったと見なされ、激昂した帝に殺されることだってあり得る。


楊胤の立場など、その程度に脆い。


 皇子でありながら、自分の意志でできることはたかが知れている。


 生きるも死ぬも、すべては帝の気分次第。


改めて突きつけられた現実に、心が沈んでいく。


 仙霞は黙ってそのままでいてくれた。


 何を考えているのだろう。何も考えていないのかもしれない。


「すまない。少し……疲れているんだ」


 楊胤は顔を上げる。


「そうでしょうね。もうお休みになられては?」


「お前の側にいたいんだ」


 思わず漏れた言葉に、仙霞は小首を傾げる。意味が分からないらしい。


 楊胤は、ふっと笑っていつもの表情を取り繕った。


「皇帝から直々に“早く罪人を見つけよ”とお達しがあった。見つかるまでは眠れない」


「ああ、なるほど」


 仙霞はようやく納得したように頷く。


「四夫人の出身地については、まだ詳報はないが、集められた情報を持ってきた」


 楊胤は先ほど届いた巻物を渡した。官吏がまとめた調書だ。


 仙霞は目を走らせ、すぐに神妙な顔で返す。


「もういいのか?」


「はい。疑惑が確信に変わりました。罪人が分かりましたよ」


「本当か!」


 楊胤は思わず声を弾ませた。


「証拠を集めるのは難しいと思っていましたが……実は、もう必要ありません」


「どういうことだ?」


「彼女は禁断の術に手を染めました。この世で最も恐ろしいことを。――皇帝を呪殺しようとしたのです。その代償は、あまりにも大きい」


「死ぬ、ということか?」


 仙霞は首を横に振った。瞳には悲しみが滲んでいる。


「いいえ。それより恐ろしいことです」


 死より恐ろしいもの――。


 楊胤は息を詰め、次の言葉を待つ。


 そして仙霞は、重々しく口を開いた。


「人ではなくなっていることでしょう。……彼女は、鬼となったのです」



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