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蠱毒の後宮妃  作者: 及川 桜
第八章 皇位継承権

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猫鬼の鳴く夜


 次の日も、そのまた次の日も、楊胤は仙霞の棟を訪れた。……包子を食べに。


(俺は一体、何をしている)


 仙霞の作る包子は、毎回具材が変えられていて、飽きることがない。


口に運ぶたび、新鮮な驚きがあるのだ。


 今夜の包子は、皮によもぎを練り込んだ淡い緑色。


中には豚ひき肉に加え、海老やイカなどの海鮮が入っていた。


芳醇な旨味がじわりと広がり、あとから蓬の香りがすっと抜けて、口の中をさっぱりと整えてくれる。


(美味すぎる。仙霞にこんな才能があったとは)


 無言で頬張りながら、多幸感にひたる。


(まさか俺が、こんな風変わりな女に胃袋を掴まれるとはな)


 料理というものはおそろしい。


仙霞のずれた言動も、不思議と気にならなくなってしまうのだから。


「今度は、いつ書庫に行くのですか?」


 そわそわした様子で仙霞がたずねる。


「公務が忙しいから、なかなか時間を取れぬ。……代わりに本を持ってこよう」


 その言葉に、仙霞の目がぱっと輝いた。


 うっかり可愛いと思ってしまった気持ちを押し殺す。


「ありがとうございます。これで日中、女官たちに変な目で見られずに済みます」


 楊胤は思わず横目で仙霞を見やる。


「……日中は、何をしているのだ?」


聞かない方がいいような気がしたが、知りたい欲に負けた。


「はい、死んだ虫を集めて解剖し、体の部位ごとに標本にしております」


 仙霞は白い頬を上気させ、嬉々とした表情で答える。


 ……やはり聞くのではなかった。


「至急、本を持ってこさせよう」


 明日の朝には届けねばと楊胤は思う。


「では、できれば人体解剖図鑑などありますと嬉しいです」


 楊胤は半眼になった。


 仙霞のずれた言動は可愛く思えてきたが、この趣味ばかりはどうしても理解できない。


 そのとき、闇に溶けた壁の隙間から、猫鬼がぬっと姿を現した。


『なゃあ』


 妙に含みのある鳴き声。


「どうしたの、猫鬼」


 仙霞が抱き上げようとすると、猫鬼はするりとかわし、外を見つめる。


 次の瞬間、それまで静まり返っていた外が騒がしくなり、暗闇のあちこちに篝火が灯り始めた。


「何事だ?」


 楊胤の顔が険しくなる。


明らかに、ただ事ではない。


「様子を見てくる」


 仙霞の顔には不安が滲んでいた。


猫鬼がこの瞬間に現れたことに、何か意味があるのかもしれない。


 嫌な胸騒ぎを覚えながら、楊胤は仙霞を残し、宮廷へと急いだ。


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