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蠱毒の後宮妃  作者: 及川 桜
第七章 狙われた妃

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影を喰う猫

楊胤の体つきは、文官というより武官に近い。


長衣の上からでも分かる引き締まった筋肉は、剣術の修練を日々欠かさぬ証だった。


(文武両道の才能の持ち主なのに、宮廷ではないがしろにされているなんて……)


 なんてもったいない、と感じた瞬間──仙霞の脳裏に、かつて見た予知の映像がよぎる。


(今は埋もれているけれど、いつか……)


 そこまで考え、頭を振った。


あまりに重大すぎる未来だ。忘れてしまう方が賢明だ。


 楊胤は次々と蠱毒を斬り払い、霧散させていく。


 最後の一匹を仕留めようと、一足跳びに部屋の端へ向かったその瞬間。


 気配を潜めていた蠱毒が、不意に仙霞へと襲いかかった。


 あまりに突然で対処できない。


動けば術は解け、蠱毒は再び姿を消してしまう。


 逡巡の刹那、黒い影が仙霞の体に張り付いた。


「ひゃっ!」


 思わず悲鳴が漏れる。


その声に気づいた楊胤が、振り向いた。


「仙霞!」


楊胤が叫ぶ。


蠱毒は仙霞の体を這い上がり、恐怖に身の毛が逆立つ。


気味の悪さではなく、本能が告げる死の恐怖。禍々しい気の塊が迫ってくる。


『なゃあ!』


 蠱毒より大きな黒い影が横切った。


何が起きたのか分からず体を見れば、蠱毒は消えていた。


「仙霞、大丈夫か⁉」


 駆け寄った楊胤が、仙霞の肩を抱く。


「……猫鬼?」


 呼ばれた猫鬼は、可愛らしい顔で振り返った。


口には、まだ魚のようにうごめく蠱毒を咥えている。


 そして、その愛らしい顔のまま、蠱毒を嚙み砕き始めた。


見るもむごたらしい光景だが、猫鬼は食べ終えると満足げに一声鳴く。


「助けてくれたのね」


 仙霞は動いて術を解いた。


すでに蠱毒の気配が消えているのを感じ取っていたからだ。


 抱き上げた猫鬼の顎を撫でると、心地よさそうに喉を鳴らす。


「蠱婆が遣わせた猫鬼は、想像以上に優秀だったのだな」


 楊胤の言葉に、仙霞も頷く。


 まさか猫鬼が、これほど俊敏に動けるとは思いもしなかった。


愛らしさと恐ろしさをあわせ持つ守り神なのだと、改めて思い知らされる。


「これで罪人は、四夫人の中にいると確定しましたね」


「……おそろしいことをするものだ」


 一度闇に堕ちた者は、悪事にためらいを持たなくなる。


仙霞に蠱毒を放つほどなら、その心はすでに人の道から外れている。


「仙霞が蠱師見習いだと気付いたのは、揺淑妃だけだったな」


「いえ。気付いていても、あえて口にしなかった可能性もあります」


「だが、そんな理屈を言い出せば絞り込めないだろう」


「……実は、もう見当はついているのです」


「なに⁉ 誰だ」


 思わず声を荒げた楊胤に、仙霞は静かに首を振った。


確定的な要素がない以上、軽々しく名を告げるわけにはいかない。


「根拠の薄い推測で罪人扱いはできません。ですが、必ず時が来たらお伝えします。そのためにも、楊胤様にお願いがあるのです」


「……お願い?」


 訝しげな眼差しを向ける楊胤。


 仙霞は鋭い視線でまっすぐ見返した。


決定打はまだだが、大方の目星はついている。あとは正しさを精査するだけだ。


「四夫人の方々の──出身地を調べていただきたいのです」



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