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蠱毒の後宮妃  作者: 及川 桜
第六章 墓掘

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花供えの墓に眠るもの

「梅昭媛の墓は、どこでしょう」


 仙霞が手提げ灯籠とうろうを掲げ、小さな石の墓碑に刻まれた文字を探るように照らしていった。


「おそらく、あれだ」


 楊胤は、花が供えられた墓碑を指さした。


「一つ一つ探す手間が省けましたね」


 仙霞は嬉しそうに、花の飾られた墓碑へと歩いていく。


恐怖も罪悪感もないのか、どこか楽しげな様子に、楊胤は思わず呆れる。


「花はまだ新しい……梅昭媛にゆかりのある女官が供えたのだろう」


「……慕われていたのですね」


「そうだな。梅昭媛は人に恨まれるような性格ではなかったと聞く。そんな女性が蠱毒で命を奪われたのだとしたら、あまりに惨い。どうか病死であってほしいものだ」


「弱く清らかな者が理不尽に散るのは、世の常です」


 仙霞は墓碑を見つめながら、宣託せんたくのように呟いた。


 それは人生観の吐露なのか、あるいは巫女めいた達観なのか。


十八の少女とは思えぬ言葉に、楊胤は驚きと共に感心する。


「なかなか残酷なことを言うな。正義は救われぬではないか」


「正義は、あるとお思いですか?」


天理昭昭てんりしょうしょう、悪事は必ず露見し、正義が天に守られる」


「皇子でありながら、面白いことをおっしゃるのですね」


 仙霞は薄く笑んだ。


 一瞬むっとしたが、歴代王朝が繰り返してきた虐殺の数々を思えば、ここで怒るのも筋違いに思える。


楊胤自身が手を汚したわけではない。だが、皇帝の血を継ぐ者として、まったく無縁とも言えない。


もし天理昭昭というものがあるのなら、背負いきれぬほどの罪は、先祖の代から子孫へと呪いとなって降りかかるだろう。


だが一方で、それを否定することは、楊胤という人間を罪なき存在と認める響きも含んでいた。


その優しさに、胸の重みがふっと和らぐ。


 ……もっとも、仙霞がそこまで思慮して語ったのかは分からないのだが。


 仙霞は石の小さな墓碑の前に腰をおろし、両の手を合わせて静かに祈る。


(殊勝なところがあるではないか)


 それはごく当たり前のことだ。けれど仙霞がやると、不思議と感心させられる。


 楊胤もその隣に腰を下ろし、合掌して冥福を祈った。


そのとき、石の墓碑の陰で、何か黒いものがもぞりと蠢いた。


楊胤は思わず仰け反りそうになる。


『なゃあ』


 まるで「よっ」と気さくに挨拶でもするようなかんじで、墓碑の陰からひょっこり顔を出している。


「あら、猫鬼。あなたも気になって来たのね」


 仙霞が呼びかけると、猫鬼は彼女の手に体を擦り寄せる。


驚くそぶりなど、仙霞にはまるでない。


「……こんなことをして、俺に呪いが降りかかって死んだらお前のせいだからな」


「楊胤様は大丈夫ですよ」


「なぜだ」


「知りません。なんとなく」


 聞いた自分が馬鹿だった。


 立ち上がると、まず花を安全な場所へと移し、鍬を振り下ろした。


ここまで来たら、もうためらっている暇はない。


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