第96話:魔鋼鍛錬の鍵──未知なる素材を求めて
鍛冶場の机の上には、記録石(古代技術の情報が刻まれた石)が置かれている。
ゼルヴォードは腕を組みながら、そこに刻まれた古代文字を読んでいた。
『魔鋼を鍛えるには、"蒼燐鉱"、"黒耀鉄"、"熾晶炭"の三つを用いよ』
「……まぁ、予想通りだな」
フィルミナとカリーナが横から覗き込む。
「蒼燐鉱、黒耀鉄、熾晶炭……聞いたことはあるけど、どれも簡単に手に入るものじゃないですね」
カリーナが腕を組んで考え込む。
「蒼燐鉱は、魔力の高い鉱石。だけど、最近は市場にもほとんど出回っていません」
「黒耀鉄は、騎士団が装備の強化に使うって聞いたことがありますけど……鍛えるのが難しいとか」
フィルミナも頷く。
「でも、一番の問題は"熾晶炭"ですね。これ、鍛冶屋の間でも"幻の素材"って言われてますし……」
ゼルヴォードはニヤリと笑う。
「なら、まずは"一番手に入りそうなヤツ"から探してみるか」
ゼルヴォードは指で記録石を叩きながら言う。
「"蒼燐鉱"は、魔力が高い場所で生成される鉱石だ。市場に出回ってねぇってことは……まだ採掘できる場所があるってことだろ」
「確かに、流通が止まってるってことは、採掘地が枯れたか、何か理由があって出せなくなってる可能性がありますね」
カリーナが頷く。
「なら、その採掘地を探すのが最優先ですね!」
フィルミナが勢いよく立ち上がる。
「そうと決まれば、情報を集めに行きましょう!」
ゼルヴォードは軽く伸びをしながら、鍛冶場の道具を片付ける。
「よし、じゃあまずは"鉱石関係の情報が集まる場所"だな」
ゼルヴォードたちが最初に向かったのは、王都の鉱山ギルドだった。
鉱山ギルドは、各地の鉱脈情報や採掘許可の管理をしている組織であり、貴重な鉱石の流通を握っている。
フィルミナがギルドの建物を見上げる。
「ここなら、蒼燐鉱の情報があるかもしれませんね!」
ゼルヴォードはゆっくりと扉を開けると、中には作業着を着た鉱夫たちが忙しそうに働いていた。
ギルドのカウンターには、受付の青年が座っている。
「いらっしゃいませ、鉱山ギルドへようこそ。どのようなご用件でしょう?」
ゼルヴォードが一歩前に出て、ストレートに尋ねる。
「"蒼燐鉱"が採れる場所を知りてぇんだが」
青年の表情が一瞬だけ険しくなる。
「……蒼燐鉱、ですか?」
「おう。市場に出回ってねぇってことは、採掘が止まってるか、問題が起きてるんじゃねぇか?」
ゼルヴォードの言葉に、青年は少し戸惑いながら答えた。
「実は……蒼燐鉱の主な採掘地だった"蒼星の洞窟"が、数ヶ月前から封鎖されているんです」
フィルミナが驚いた顔をする。
「封鎖!? 何かあったんですか?」
青年は少し困ったように言葉を続けた。
「……詳細はわかりませんが、採掘作業中に"異常な魔力反応"が発生して、鉱夫たちが次々と倒れたそうです。その後、ギルドの上層部が安全確保のために封鎖を決定しました」
「……なるほどな」
ゼルヴォードは顎に手を当てる。
(魔力の高い鉱石が生成される場所ってのは、"魔法的な影響"を受けやすい。何かが"異常を引き起こした"可能性が高いな)
カリーナが少し考えて、ゼルヴォードに向き直る。
「どうします? 一応、鉱山ギルドに正式な調査依頼を出す方法もありますが……」
ゼルヴォードはニヤリと笑った。
「……封鎖されてるってことは、"誰も行かねぇ場所"ってことだろ?」
「まさか……行くつもりですか!?」
フィルミナが驚くが、ゼルヴォードはもう決めていた。
「"異常な魔力反応"が発生したってのが気に食わねぇ。何が起きてるのか、自分の目で確かめるさ」
「……はぁ、やっぱりそうなりますよね」
カリーナは苦笑しながらも、準備のためにメモを取り始めた。
約1時間おきに予約しました。




