第89話:変質金属の解析、つながる手がかり
ゼルヴォードは、カリーナの研究室のドアをノックすることなく開けた。
「おい、研究バカ。面白いもん持ってきてやったぞ」
「だからノックしなさいって……ん?」
カリーナは何か薬品を調合していたようで、手を止めてゼルヴォードの方を見た。
「……また妙なものを拾ってきましたね?」
「まぁな」
ゼルヴォードはポーチから"変質金属の小片"を取り出し、机の上に置いた。
「こいつの正体、調べられるか?」
カリーナはその金属を手に取り、興味深そうに眺める。
「ふむ……"精融"で元の状態に戻したのですね」
「お前の知識なら、こいつが何なのか分かるかと思ってな」
カリーナはメガネをくいっと上げ、真剣な表情になる。
「……よし、試してみましょう」
カリーナは手際よく錬金術用の器具を取り出し、金属を特殊な溶液に沈めた。
シュワァァ……
金属の表面がわずかに泡立ち、淡い青色の発光を始める。
「この光……"魔力拡散材"ですね」
「魔力拡散材?」
ゼルヴォードが眉をひそめると、カリーナは説明を始めた。
「簡単に言えば、"特定の魔力を吸収し、拡散する特性を持つ金属"です」
・この金属は"魔力を封じる"のではなく、"魔力を拡散して抑制する"特性を持つ
・つまり、魔法装備や武器に使うと"魔力のコントロールを奪う"効果を発揮する可能性がある
・規格鋼の異常も、これと関連している可能性が高い
「つまり、"魔法の使えない武器"を意図的に作れるってことか?」
ゼルヴォードが確認すると、カリーナは頷いた。
「ええ。もしこの金属が規格鋼に混ぜられているのだとしたら……王都で流通している武器の性能が"劣化している"理由も納得できます」
「……なるほどな」
ゼルヴォードは腕を組んで考え込む。
(つまり、誰かが"意図的に"規格鋼の質を落とし、魔力適性を下げている……?)
「で、どうするんですか?」
カリーナが問いかけると、ゼルヴォードはニヤリと笑った。
「そろそろ、この異変の"元締め"を探るとするか」
一方その頃、冒険者ギルドではオルグたちの調査が進んでいた。
・規格鋼の供給元が、"王都の特定の工房"と関係していることが判明
・その工房は、近年になって突然生産量を拡大している
・しかし、"職人の技術レベルは低い"という奇妙な矛盾が生じている
「つまり……"本来の規格鋼を作る技術を持っていない"のに、何者かの支援を受けて供給量を増やしている、ってことか?」
「そういうことだ」
オルグは腕を組みながら、ギルドの報告書を見つめた。
(つまり、王都のどこかに"本物の規格鋼を作る技術"を握っている奴がいて……そいつが意図的に劣化品を流通させている?)
「……ゼルヴォードの調査結果とすり合わせる必要があるな」




