第8話:住む場所を探せ
「なあ、さっきのスキル……何なんだ?」
ギルドマスターグレイヴ・ドランハンが腕を組みながらゼルヴォードを見つめる。
その問いに、周囲の職人たちも興味津々といった様子で耳を傾けた。
ゼルヴォードは軽く肩をすくめ、刃を研ぐ手を止める。
「俺の固有スキルだよ」
「固有スキル……?」
職人たちがざわめく。
「冒険者だった頃の知識と経験が、鍛冶をやってるうちにスキルとして形になったんだろうな」
「……ってことは、鍛冶のスキルってわけじゃねぇのか?」
「いや、そういうわけでもない」
ゼルヴォードは刃を撫でながら続ける。
「戦場で長年武器を使い込んできたおかげで、金属の癖や、刃がどう劣化するかが肌で分かるようになった。
その知識と経験が、鍛冶をやってるうちにスキルとして定着したんだろうな」
「……ってことは、誰でも習得できるスキルじゃないってことか?」
グレイヴが核心を突くと、ゼルヴォードは薄く笑った。
「ああ、これは誰でも使えるスキルじゃねぇ」
固有スキル──
それは、鍛冶師としての鍛錬だけではなく、"戦場の知識と経験"が組み合わさって生まれたもの。
だからこそ、鍛冶ギルドの職人たちが何年鍛えても得られないスキルになっている。
周囲の職人たちは納得したような、モヤモヤしたような表情を浮かべていた。
「……なるほどな。確かに、普通の鍛冶師にはない"感覚"がありそうだ」
グレイヴは顎をさすりながら言った。
「ま、俺は細かいことはどうでもいいが……お前、今どこに泊まってんだ?」
話題が変わり、ゼルヴォードは「おっと」といった表情を浮かべる。
「どこにもな。まだこの街に来たばかりで、宿すら取ってねぇ」
「……おいおい、いきなり鍛冶ギルドに乗り込んできたのかよ」
グレイヴが呆れたように笑う。
「ま、鍛冶屋をやるなら住む場所は必要だろうな。
ここで本格的にやるつもりなら、それなりの施設がある場所を探さねぇと」
「だな。どっか鍛冶ができる場所ねぇか?」
グレイヴは少し考えた後、カウンターの方を顎で示した。
「なら、ティアに聞け。あいつなら何か知ってるだろ」
ゼルヴォードが視線を向けると、カウンターには一人の女性が座っていた。
鍛冶ギルドの受付嬢・ティア
彼女は栗色のセミロングをポニーテールにしてまとめた、20代半ばくらいの女性。
ギルドの職人たちと親しく話しながら、手際よく書類を処理している。
ちょっと抜けたところもありそうだが、ギルド内では頼られる存在のようだ。
ゼルヴォードが近づくと、ティアは顔を上げ、目を細めた。
「ん? あなた、さっき修理してた人よね?」
「ゼルヴォードだ。住む場所を探してるんだが、どこか知らねぇか?」
「住む場所? ああ、鍛冶場のあるところってこと?」
「ああ。適当に宿を取るのもいいが、作業できる場所が欲しいんだよ」
ティアは少し考え、数枚の書類をペラペラとめくる。
「うーん……職人街の貸工房は、どこも埋まってるわね……。
じゃあ──冒険者ギルドの物件窓口に行ってみたらどう?」
ゼルヴォードは眉を上げる。
「冒険者ギルド?」
ティアは頷きながら説明する。
「ええ。冒険者向けに鍛冶場付きの施設を貸し出してるらしいわよ?
短期契約の工房とか、専属鍛冶師向けの施設もあるって聞いたことがあるわ」
「へぇ……そんなもんがあるのか」
ゼルヴォードは顎に手を当てて考える。
確かに、王都の冒険者たちにとって、鍛冶屋は必要不可欠な存在だ。
だったら、専用の施設があってもおかしくはない。
「場所は?」
「王都の中央通り沿いにある冒険者ギルドの本部よ。
ギルドホールの一角に物件窓口があるから、そこで聞いてみたら?」
「なるほどな」
ゼルヴォードはニッと笑い、ティアに軽く手を振った。
「助かったよ、ティア」
「ふふ、どういたしまして。今度、工房を構えたら遊びに行くわね!」
ゼルヴォードは軽く笑い、カウンターを離れた。
グレイヴがこちらを見ながらニヤリと笑う。
「じゃあ、俺は冒険者ギルドに行ってみるぜ」
「おう。もし鍛冶場を手に入れたら、お前の腕がどこまで通用するか、もう少し見せてもらうぜ?」
ゼルヴォードは肩をすくめ、軽く手を上げた。
「……楽しみにしてな」
そう言い残し、ゼルヴォードは冒険者ギルドへと向かった。