第85話:異常な剣の解析開始! そして戦場の異変!
「さて……始めるか」
ゼルヴォードは剣を作業台に置き、慎重に観察を始めた。
フィルミナとカリーナも興味深そうにその様子を見守っている。
「まずは、"どこが"異常なのかを見極めるところからだな」
彼は剣の刃を指で軽くなぞりながら、目を細めた。
「見た目はそこまで悪くない。問題は"強度"か……」
カリーナが横から覗き込み、興味津々といった様子で質問する。
「ゼルヴォードさん、こういう場合はどうやって解析するんです?」
ゼルヴォードは小さく笑い、炉の温度を確認した後、剣を取り上げる。
「まずは"熱してみる"。素材がどう反応するかで、いろいろ分かるんだよ」
──その頃、王都近郊の魔物討伐作戦では異変が起きていた。
「全員、間隔を取れ! 一体ずつ確実に仕留めろ!」
戦場の中央で指揮を執っていたのは、王都騎士団の小隊隊長・ガルシス・ブレイドハートだった。
鍛え抜かれた肉体と無駄のない動き。年齢は30代前半、実戦経験も豊富な指揮官である。
しかし、彼の表情は険しかった。
(まずい……剣が……)
周囲では、騎士たちが魔物と戦っていたが、異常なほど多くの剣が破損していた。
「隊長! 剣が……!!」
ガルシスが振り向いた瞬間、部下の一人が魔物へと斬りかかる。
だが──
パキィィンッ!!
「なっ……!?」
刃が粉々に砕け散り、魔物の反撃を受ける寸前でガルシスが間に入る。
ギィンッ!!!
彼の剣が魔物の爪を受け止め、火花を散らした。
「くそっ……!」
ガルシスは力を込めて魔物を押し返すが、状況は最悪だった。
(この剣も、長くは持たない……!)
「全員、撤退準備!! 殿は俺がやる!!」
ゴォォォォンッ!!!
魔物の群れが襲い掛かる中、ガルシスは苦し紛れに地面を蹴った。
「俺の剣よ……頼むから、最後まで持ってくれ!!」
「つまり……"何かが混ざってる"?」
カリーナがぽつりと言うと、ゼルヴォードは軽く頷いた。
「その可能性が高いな」
ゼルヴォードは慎重に剣を炉に入れ、加熱していく。
しかし──通常なら柔らかくなるはずの金属が、異常な反応を見せた。
「……ん?」
ゼルヴォードが眉をひそめる。
「ゼルさん、なんかおかしくないですか?」
「ああ……"熱が均等に伝わってねぇ"」
金属全体が赤熱するのではなく、部分的にしか熱が広がっていない。
「つまり……"何かが抜けてる"?」
ゼルヴォードはカリーナの言葉を聞き、軽く頷いた。
「その可能性もあるな」
慎重に剣の表面を削り、内部を確認すると、刃の一部がまだら模様になっていた。
「……これは、普通の金属劣化じゃねぇな」
カリーナが目を丸くする。
「まるで、"金属の魂"が抜け落ちたみたいですね」
その一言に、ゼルヴォードの目が鋭く光る。
「……カリーナ、お前、今なんて言った?」
「え? いや、だから……"金属の魂"が抜けたみたいな……」
「……"魂"か」
ゼルヴォードは剣を見つめ、何かを思い出すように目を細めた。
ゼルヴォードは静かに剣を置き、低く呟く。
「……この異常、"単なる素材の問題"じゃねぇかもしれねぇな」
フィルミナが不安そうに聞く。
「ゼルさん、それって……」
「可能性の話だがな。"王都の鍛冶技術"が"何かを失っている"って話があっただろ?」
「ええ」
「もし、それが"技術"じゃなくて、"素材そのもの"が原因だったらどうする?」
カリーナが息を呑む。
「つまり……"王都の武器は、作る段階で何かを失っている"……?」
「そういうことだ」
ゼルヴォードは剣をじっと見つめながら、静かに呟いた。
「……"何か"が、この国の鍛冶技術に影響を与えてる。それが分からねぇと、今回の問題は解決できねぇな」
フィルミナも不安そうな顔をする。
「ゼルさん……なんだか、すごく厄介なことになりそうですね……」
「まったくだ」
ゼルヴォードはため息をつきながら、静かに剣を置いた。




