第84話:ギルドからの新たな依頼!
「ゼルヴォードさん、ちょっといいですか?」
鍛冶屋の扉が開き、現れたのは鍛冶ギルドの職人だった。
ギルドマスターのグレイヴではなく、中堅クラスの職人──レオ・ハンツだ。
「何の用だ、レオ?」
ゼルヴォードは炉の温度を確認しながら、ちらりと視線を向ける。
「仕事の依頼です。……ゼルヴォードさんにしか頼めない内容でして」
「ほう?」
ゼルヴォードは少しだけ興味を持ち、レオが持っている包みに目を向けた。
厳重に布で包まれた中から、異様な気配が漂っている。
「……ただの修理依頼じゃなさそうだな」
フィルミナとカリーナもその気配に気づき、顔を見合わせた。
「ゼルさん、これ……」
「ふむ、魔力の流れが乱れてますね……?」
カリーナがじっと包みを見つめると、レオは渋い顔をして布をほどいた。
ゴトリ……
テーブルに置かれたのは、ひどく損傷した剣だった。
刃は半分近く欠け、柄の部分には焦げ跡のようなものが残っている。
しかし、問題はそこではなかった。
「……何だ、これ?」
ゼルヴォードは剣を手に取り、軽く指でなぞる。
「この素材……妙に脆くなってるな。普通の劣化とは違う」
レオは渋い顔をして頷いた。
「この剣、もともとは王都の鍛冶ギルドで作られた"高級品"でした。ですが、使用者である冒険者が依頼をこなしている最中、突然"崩れるように"砕けたんです」
「……なるほどな」
ゼルヴォードは剣をじっと見つめた。
「つまり、王都の鍛冶技術に何か異常が起きているってことか?」
レオは黙って頷いた。
カリーナも興味津々で剣を観察する。
「確かに、通常の劣化とは異なりますね。むしろ、素材そのものが何かに"侵されている"ように見えます」
フィルミナも覗き込み、眉をひそめた。
「……ゼルさん、もしかして"規格鋼"の問題ですか?」
「……かもしれねぇな」
ゼルヴォードは微かに笑った。
「前にグレイヴ(鍛冶ギルドのギルドマスター)も言ってた。"王都の鍛冶技術は何かを失っている"ってな」
カリーナは考え込むように指を顎に当てる。
「つまり、この剣の劣化の原因が分かれば、何が失われたのかも分かるかもしれないってことですね?」
ゼルヴォードは軽く頷く。
「まぁ、そういうこった」
レオは険しい顔をして言った。
「とにかく、王都の鍛冶技術に何か異常が起きているのは確かです。 しかし、ギルドの職人たちは"素材の劣化"だと判断していて、深く調べようとしません」
「ふーん……つまり、俺がこの剣の"異常"を解明しろってことか」
「話が早くて助かります」
レオは苦笑しながらも、どこか安心したように頷いた。
「それと……この件について、冒険者ギルドのサブギルマスター・オルグさんも気にしていました。」
「……オルグが?」
ゼルヴォードは少し驚いた。
「ええ。実は、今回の"異常な劣化"は、この剣だけではないらしいんです。他にも、複数の武器が突然壊れるケースが発生しているとか」
ゼルヴォードは剣を軽く弾いた。
「……なるほどな。単なる鍛冶の問題じゃなく、王都全体の問題になりつつあるってわけか」
「その可能性が高いです。オルグさんは"戦場で武器が壊れることの危険性"をよく理解しているので、この問題が放置されるのを嫌がっています」
「アイツらしいな」
ゼルヴォードは軽く笑った。
「……まぁ、気に入らねぇが、確かに気になるな。いいぜ、修復してみるか」
「ありがとうございます!」
レオは深く頭を下げ、ゼルヴォードの鍛冶場を後にした。
ゼルヴォードは剣をじっと見つめ、静かに言った。
「さて……こいつが何を"失った"のか、調べさせてもらうとするか」
フィルミナとカリーナも、真剣な表情でそれを見守る。




