第80話:研究者の執念─カリーナの暴走?
「……悪くねぇな」
ゼルヴォードは机の上に置かれた試作魔導具を手に取り、軽く眺める。
すでに《翠炎晶》と《雷霆の砂鉄》は高純度に精製され、魔導具への組み込みも成功していた。
「魔力の流れが均一になってるな。加工の精度も悪くねぇ」
カリーナは満足そうに頷いた。
「ええ、これまでにないほど効率的な魔力変換が可能になりました。この技術が確立できれば、魔導具の性能を飛躍的に向上させられるはずです!」
ゼルヴォードは腕を組み、少し考え込む。
「ただな……」
「?」
カリーナが首を傾げる。
「この素材がなくなったら、どうする?」
「…………え?」
ゼルヴォードは、机の上の《翠炎晶》と《雷霆の砂鉄》を指さした。
「こいつらは希少素材だ。そうポンポン手に入るもんじゃねぇ」
「今回は少し提供したが、こっちも"在庫が無限にあるわけじゃねぇ"」
カリーナの顔が一瞬で引きつる。
「えっ……」
「つまり、この研究を続けたいなら──"代替素材"を見つけるか、新しい精製技術を開発する必要があるってことだ」
カリーナは急いで思考を巡らせる。
・代替素材の探索? → どこにあるかも分からない。ギルドに依頼?気の遠くなる話……
・新たな精製技術の開発? → 錬金術の手法では、このレベルの純度には到達できない……。
カリーナの額に汗が浮かぶ。
(ま、まずい……!このままじゃ研究が……!)
──そして、決意した。
「ゼルヴォードさん!!」
「……なんだ」
「ならば!!私をあなたの研究対象にしてください!!!」
「…………は?」
カリーナは机をバンッと叩き、勢いよく立ち上がる。
「私、あなたの鍛冶技術をもっと知りたいんです!!」
ゼルヴォードは呆れ顔で腕を組む。
「……だから?」
「私を鍛冶屋に通わせてください!!」
フィルミナ「!?!??」
フィルミナは思わず吹き出しそうになったが、なんとかこらえる。
だが、この騒ぎは二人だけの話には収まらなかった。
「ちょっ、主任!?!? 今、なんて……?」
「鍛冶屋に通うって!? それ、本気ですか!?」
周囲の研究員たちが一斉に騒ぎ始める。
それも当然だ。
カリーナ・ヴェルデンは、この研究所の主任クラスの研究者だ。
その彼女が突然「鍛冶を学ぶ」と宣言したのだから、研究所全体が混乱するのも無理はない。
「いやいや、主任が抜けたら研究が滞りますよ!!」
「今後の研究方針はどうするんですか!?」
「っていうか、鍛冶師って!? そんなの私たちの分野じゃないですよ!!」
ゼルヴォードはそれを見ながら、ため息をついた。
(めんどくせぇことになったな……)
フィルミナはニヤニヤしながらゼルヴォードを見る。
「ゼルさん、鍛冶屋に"押しかけ研究者"が来るみたいですね」
「お前、楽しんでんだろ」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。錬金術と鍛冶の融合ですよ?」
ゼルヴォードは頭をかく。
「……まぁ、見学くらいなら勝手にしろ」
カリーナ「やった!!!」
こうして、錬金術師カリーナの"鍛冶研究ライフ"がスタートすることになった。
その場の研究員たちは、まるで雷に打たれたような顔で立ち尽くしていた……。




