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第79話:ゼルヴォードの固有スキル─精融の謎

ゼルヴォードの「精融」によって、《翠炎晶》と《雷霆の砂鉄》は短時間で高純度に変化した。


カリーナは驚きと興奮が混じった表情で、それを見つめていた。


(……これが「鍛冶の技術」? いや、違う……)


錬金術では、魔力を細かく調整しながら素材を精製するのが基本だ。

一歩間違えれば、素材の性質が変わってしまう危険な工程でもある。


だが、ゼルヴォードの手法は違った。

まるで素材そのものを「理解」して、最適な状態に調整しているように見えた。


「……ゼルヴォードさん、その技術、いったい何なんですか?」


思わず問いかける。


「あなたが今使ったのは……錬金術でも、普通の鍛冶技術でもないですよね?」


ゼルヴォードはカリーナの言葉に、少し考えてから答えた。


「これは俺の固有スキル──"精融"ってやつだ」


カリーナは眉をひそめる。


「固有スキル……?」


「そうだ。他のヤツには使えねぇ。俺だけのもんだ」


「……理由を聞いても?」


ゼルヴォードは、軽く腕を組みながら答えた。


「簡単に言えば、"鍛冶のスキル"と"長年の戦闘経験と知識"が組み合わさった結果だ」


「……戦闘経験?」


カリーナはますます混乱する。


「鍛冶のスキルだけならまだしも、戦闘経験が関係しているとは……?」


ゼルヴォードは静かに続ける。


「……戦場にいたヤツなら分かるだろうが、武器ってのは"ただ作るだけじゃ意味がねぇ"」


「戦いの中でどれだけ使われるか、どう消耗するか──"実戦の知識"がなけりゃ、本当に使える武器なんて作れねぇんだよ」


「俺は鍛冶だけをやってたわけじゃねぇ。戦場で戦いながら、"武器の最適解"を何度も試してきた。その積み重ねの結果、このスキルが生まれたんだ」


カリーナは興味深そうに尋ねる。


「では、理論的には"鍛冶のスキル"と"戦闘経験"を積めば、誰でも習得できるんですか?」


ゼルヴォードは鼻で笑った。


「無理だな」


カリーナは意外そうに目を瞬かせた。


「なぜです?」


ゼルヴォードは少しだけ遠い目をしながら答えた。


「俺が"何年"この技術を磨いたと思ってんだ?」


「普通の鍛冶師は、鍛冶だけやってる。戦士は戦闘だけやってる。"両方"を極めるなんてヤツは、まずいねぇ」


「しかも、単純に鍛冶と戦闘をやればいいってもんじゃねぇ。両方を"融合"させた結果として生まれたスキルだからな」


「つまり、お前がどれだけ研究しようと、"精融"そのものを真似することは不可能だ」


カリーナは、その言葉を聞いてしばらく黙っていた。


(……鍛冶と戦闘の融合……)


(これは、私たち錬金術師が到達できる領域じゃない……)


彼女は、改めて"鍛冶"と"錬金術"の違いを痛感した。


錬金術はあくまで素材を研究し、最適な形に変化させる技術。

だが、ゼルヴォードの精融は"素材がどう使われるかまで含めた最適化"を行っている。


(……これは、"戦場で鍛えられた技術"なのね)


ゼルヴォードの「精融」で精製された素材を使い、カリーナは魔導具の試作を開始した。


結果は上々。


「……魔力の流れが均一になったことで、今までより"魔力の変換効率"が向上していますね」


「やはり、魔導具の基礎素材を"純度の高い状態"にすることで、無駄なエネルギー消費を抑えられる……!」


カリーナは感動しながら、試作した魔導具を手に取る。


(この鍛冶師……いや、"戦場鍛冶師"とでも言うべきか)


(彼の技術をもっと知れば、錬金術に新たな可能性を見出せるかもしれない……)


ゼルヴォードは興味なさげに腕を組んでいたが、カリーナの研究が進展したことには満足しているようだった。


「……まぁ、これで錬金術の技術向上に少しは役立ったってとこか」


カリーナはゼルヴォードをじっと見つめる。


(やはり……この男をもっと研究する必要があるわね)

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