第73話:街へ買い出し!目指すは香辛料屋!
ゼルヴォードは鍛冶仕事の合間、ふと思い立った。
「……そういや、最近まともな飯を食ってねぇな」
最近は武器の製作や修理、そしてライラの弓の仕上げで忙しく、まともな買い物にも行っていなかった。
「たまには、食材でも買いに行くか……」
フィルミナが作る料理は美味いが、もっと味の幅を広げられるようにしたかった。特に"スパイス"が足りない気がする。
"香辛料屋"を探してみよう──。
王都の市場はいつも活気に溢れていた。
露店が並び、行き交う人々が賑やかに商談をしている。肉、野菜、魚……新鮮な食材が並び、香ばしい匂いが辺りを漂っている。
「お兄さん、うちのリンゴは甘いよ!」
「新鮮な魚だ!安くしとくぜ!」
威勢のいい声が飛び交う中、ゼルヴォードは目的の香辛料屋を探す。
「さて、スパイスを扱ってる店は……」
しばらく歩くと、色とりどりの小瓶が並ぶ店を見つけた。
『アレッタの香辛堂』──それが店の名前だった。
店の奥から、大柄で陽気なおばさんが現れた。
「いらっしゃい!あら、見ねぇ顔だねぇ!」
ゼルヴォードは軽く頷く。
「ちょっと香辛料を探してるんだが……料理に使える、刺激のあるやつを頼む」
「料理用なら、この《赤陽のペッパー》がオススメさ!」
アレッタが差し出したのは、真っ赤な粉末の入った小瓶だった。
「こいつは普通の料理にも合うが、魔力を回復させる効果があるって言われてんだよ」
ゼルヴォードは瓶を受け取り、じっくりと観察する。
(……魔力回復か。料理だけじゃなく、鍛冶にも応用できるかもしれねぇな)
ゼルヴォードは、ふと別の食材にも目を向ける。
「この《青霜のキノコ》ってのは?」
「おぉ、それは珍しいねぇ!冷却効果があるキノコさ。鍋に入れるとスープが程よく冷めにくくなるんだよ」
(……こりゃフィルミナが喜びそうだな)
ゼルヴォードは、それもいくつか購入することにした。
「お兄さん、いい買い物してくねぇ!はい、おまけのスパイスもつけとくよ!」
アレッタが笑いながら、小さな袋を渡してくる。
「また来ておくれよ!」
ゼルヴォードは軽く手を上げて店を後にした。
市場を歩いていると、鍛冶屋とは無関係の道具屋から困った声が聞こえてきた。
「くそっ……これじゃ商売にならねぇ……!」
興味を引かれ、ゼルヴォードが店の中を覗くと、店主の男が困り果てた様子で頭を抱えていた。
「どうした?」
「……お客さんか?いや、実はな──」
店主が見せてきたのは、店の目玉商品である"魔力秤"が壊れてしまったというものだった。
「この魔力秤がないと、正確な計量ができなくてな……精密な魔道具を売るには、これが不可欠なんだ」
ゼルヴォードは壊れた秤を手に取り、じっと見つめる。
(……機構は単純だが、魔力の伝導路がズレている)
「ちょっと貸してみろ」
ゼルヴォードは持ち前の鍛冶技術と魔力制御の知識を駆使し、すぐに問題を見つけた。
「これ、魔力の流れが詰まってるだけだ。接点を調整すれば──」
彼は秤の一部を慎重に調整し、数分後……
カチッ──。
魔力秤が再び正常に作動し始めた。
「おぉ!?動いた!直ったのか!?」
店主は目を輝かせた。
「助かったよ、兄ちゃん!あんた、すごい技術を持ってるな!」
「……まぁな。今度は雑に扱うなよ」
店主は感謝の意を込めて、少し値引きしてくれた。
買い物も終え、ゼルヴォードは市場を後にする。
(さて、これでフィルミナに何か新しい料理を試させてみるか)
新しい香辛料と食材を手に入れ、ちょっとした修理で人助けもできた。
「たまには、こういう買い物も悪くねぇな」
そう呟きながら、ゼルヴォードは鍛冶屋へと戻っていった──。




