第69話:"戦後処理"──各ギルドの報告と消された記録、王国への提出
──戦いの終結から一日後。
王都の空は、未だに"異変"の余韻を残していた。
異常な靄が晴れたとはいえ、王都の各地には"戦いの爪痕"が生々しく残っている。
街路は破壊され、建物の一部は崩壊。
戦闘による爆発の跡が、至るところに黒焦げの痕を残していた。
そして、それぞれのギルドでは──
戦闘を生き延びた者たちが、後処理に追われていた。
◆「……これが、冒険者ギルドの被害報告だ」
・戦闘参加者:ギルド登録者の約30%
・負傷者:全体の40%(重傷者15名、死亡者4名)
・"未知の魔力汚染"による影響で、一部の冒険者が未だ回復せず
・"靄に包まれたエリア"で発生した敵の特性が不明であり、討伐報告が困難
・改善課題:"緊急時の対策班"を設置し、未知の魔物に即応できる体制を整える
「……正直、これほどの被害が出るとは思わなかった」
オルグは苦々しく書類を閉じる。
未知の魔物、未知の魔力汚染……何か"根本的な解決策"が必要だ。
◆「次に、鍛冶屋ギルドの被害報告を行う」
・施設の損傷:鍛冶場の炉の一部が損壊、修復には3週間以上
・戦闘参加者:防衛部隊が対応、直接の死者なし
・破損した武具:約200点以上(緊急修理が必要)
・改善課題:"緊急装備提供体制"を強化し、冒険者や騎士団への即時支援を可能にする
「何より、"武器の破損率が異常に高かった"。通常の魔物相手なら、こんなに壊れるはずがない」
鍛冶屋ギルドとして、新たな強度の武器開発が必要だと認識された。
◆「魔道士ギルドとして、今回の異変に関する報告を行う」
・被害状況:戦闘に参加した魔道士の約30%が魔力汚染の影響を受け、一時的な魔力喪失を経験
・研究施設:実験棟の魔力結晶炉が暴走し、一部施設が崩壊(復旧には1ヶ月以上)
・原因:魔力変換装置の暴走、および"未知の魔力干渉"による影響
・改善課題:"魔力汚染の解析班"を設置し、同様の現象が発生した際の対処法を研究する
「今回の件で、"魔力干渉型の敵"への対策がまるで不十分だったことが露呈した」
◆騎士団──第三隊長・アーネスト・バルフォードの報告
・戦闘参加者:騎士団第三部隊(総勢80名)
・負傷者:34名、死亡者6名
・戦闘不能:一部の騎士が"靄の影響で精神錯乱"を起こし、戦闘継続が困難に
・改善課題:"魔力耐性装備"の開発が急務
「正直、ここまでの被害が出るとは思っていなかった」
──魔道士ギルド、執務室。
リオネルは一人で書類を整理していた。
ベヒモス・アビス討伐の記録を見つめながら、しばし考える。
(……この記録を王国に提出すれば、ゼルヴォードが危険視される可能性がある)
「あの戦いを見た者なら、誰でも理解する。ゼルヴォードは"異質な存在"だと」
彼は報告書の中から、ゼルヴォードに関する記述を削除した。
代わりに"複数ギルドによる連携討伐"という形で書き直す。
「……すまないな、ゼルヴォード」
各ギルドの代表者たちは、王国の役人に報告書を提出した。
こうして、王国への報告は"ゼルヴォード不在"のまま完了した。
──鍛冶屋ギルド
ゼルヴォードは、すでに仕事に取り掛かっていた。
「……これは?」
「ライラ・フェルディナンドの弓の修理依頼だ」
ゼルヴォードは弓を手に取り、状態を確認する。
「……まぁ、修理はできるが"普通に直す"だけじゃつまらねぇな」
ニヤリと笑い、彼は早速作業に取り掛かるのだった。




