第6話:鍛冶ギルドの現状
鍛冶ギルド──ルナエスト支部。
王都の職人街の一角にあり、鍛冶職人たちが集う場所。
冒険者ギルドとは違い、依頼を受けるのは"戦う者"ではなく"作る者"たち。
ゼルヴォードはギルドの建物に近づくと、入り口付近で立ち止まり、様子を伺った。
(さて……ここの環境はどうなってるか)
鍛冶場からは絶え間なく槌の音が響く。
燃え盛る炉の熱気と、金属を打ち鳴らす音が交錯するこの場所は、鍛冶職人たちの戦場そのものだった。
彼は慎重に中へと踏み込んだ。
◆ 聞き耳を立てる──鍛冶屋たちの現状
ギルドの内部は広く、奥には複数の鍛冶場が設けられている。
職人たちは各々の持ち場で武器や防具の製作に励んでいた。
ゼルヴォードは特に目立つことなく、適当な場所に腰を下ろし、周囲の会話に耳を傾ける。
「くそっ、また折れたのか!?」
「最近の鋼材は質が落ちてるな……前みたいに良い鉱石が手に入らねぇ」
「注文が多すぎるんだよ。急いで作った武器なんざ、すぐガタがくるに決まってるだろ」
「それでも文句を言えねぇさ。ウチはギルドの規格に従うしかねぇ」
ゼルヴォードは静かに目を閉じる。
(……なるほどな)
◆ 現状の問題点
素材の質が落ちている → 良質な鉱石の供給が減っている
武器の耐久性が低い → 急ぎの仕事が増え、精度が下がっている
ギルドの規格に縛られている → 独自の技術を活かせず、大量生産に追われる
(ここも……鍛冶屋ってより、"工場"って感じか)
ゼルヴォードは興味深げに炉の火を見つめた。
そこへ、ギルドの奥から一人の男が現れた。
◆ ギルドマスターの登場──グレイヴ・ドランハン
「──おい、そこ。見慣れねぇ顔だな」
低く響く声。
ゼルヴォードが顔を上げると、目の前には大柄な男が立っていた。
グレイヴ・ドランハン──鍛冶ギルド・ルナエスト支部のギルドマスター。
銀髪交じりの短髪に、分厚い腕。
前掛けには無数の煤汚れがあり、日々鍛冶に打ち込んでいることが一目で分かる。
ゼルヴォードは軽く肩をすくめた。
「ただの旅の鍛冶屋だ。王都の鍛冶事情が気になってな」
「……ほう?」
グレイヴはゼルヴォードをじっくりと観察する。
「旅の鍛冶屋、ねぇ……」
「俺はグレイヴ・ドランハン。ここのギルドマスターをやってる者だ」
「へぇ……」
ゼルヴォードは興味深げにグレイヴを見つめた。
"職人の眼"をしている。
長年鍛冶をやってきた者が持つ、"素材の本質を見抜く眼"。
グレイヴは腕を組み、じっとゼルヴォードを見据えた後、ふっと口元を歪めた。
「鍛冶屋が増えるのはいいことだが……今の王都じゃ、"作れるもの"は限られてるぜ?」
ゼルヴォードは眉を上げる。
「どういう意味だ?」
グレイヴはチラリとギルドの奥を見やった。
「お前も聞いてたろ? 素材の質が落ちてる。
……いや、それだけじゃねぇ。"ある事情"で、一部の鍛冶技術が制限されてるんだよ」
「制限?」
ゼルヴォードの表情が僅かに引き締まる。
「ルナエストの武具は、ある程度の規格で作らなきゃならねぇ。
"特定の技術"を使うことも、"特定の素材"を扱うことも禁止されてる。」
「……それは、どういう理由で?」
グレイヴは小さく笑った。
「そりゃあ……"便利すぎる武器"があると、困る奴らがいるからさ」
「……なるほどな」
ゼルヴォードは静かに息をついた。
つまり、強すぎる武具は意図的に抑えられている。
(……ギルドの問題か? それとも王国の方針か?)
何かがある。
そう確信しながら、ゼルヴォードはグレイヴを見据えた。
「その"制限"の正体、もう少し詳しく聞かせてもらえねぇか?」
グレイヴはゼルヴォードを見つめ、ニヤリと笑った。
「いいぜ。ただし……"職人としての腕"を見せてもらうことになるがな?」