第54話:動き出す研究機関、狙われる少女
「……まただ」
フィルミナは授業中、ノートを取りながら"異様な視線"を感じていた。
昨日から続いている、背後からじっと見られているような感覚。
けれど、何度振り返っても、誰かが見ているわけではない。
(……やっぱり気のせいじゃない)
そう確信しつつも、フィルミナは平静を装いながら授業を続けた。
だが、その違和感は次の瞬間、確信に変わる。
──コツ、コツ、コツ……
黒いローブを纏った人物が、廊下を歩いていた。
それだけなら、単なる学院の職員かもしれない。
だが、問題は──
(昨日、師匠と会った"あの男"と似ている……!?)
フィルミナの指先が、無意識にネックレスへと伸びる。
冷たい金属の感触が、不安を少しだけ和らげた。
(……大丈夫、師匠が作ってくれた指輪がある。もしもの時は……)
彼女はゆっくりと息を吐き、意識を集中させる。
その時──
──ピキィィィン……!
指輪が"淡く光った"。
「……え?」
フィルミナの視界に、一瞬だけ"青白い魔力の揺らぎ"が見えた。
まるで、周囲に"魔力の干渉"が起きているような……
(何かがおかしい──!?)
しかし、その時にはもう遅かった。
──ゴゴゴゴゴ……!!
突然、学院の建物が大きく揺れ始めた。
一方その頃。
ゼルヴォードは、王都研究機関の外壁を見上げていた。
(……思ったより、警備が厳重だな)
彼は王都の施設の構造を頭の中で思い描く。
王都研究機関は、五つの棟で構成されている巨大施設だ。
・第一棟:医療・回復魔法の研究施設(表向きの顔)
・第二棟:錬金術・薬学の研究施設(重要拠点)
・第三棟:魔道具の開発・解析施設(今回の本命)
・第四棟:軍事・戦闘魔法関連(未公開エリア)
・第五棟:王族専用の機密研究施設(未知の領域)
ゼルヴォードの目的は"第三棟"にある"魔道具開発・解析施設"。
そこに、"フィルミナの指輪の秘密"を解明するヒントがあるはずだった。
(……とりあえず、内部を確認しねぇとな)
ゼルヴォードはフードを深く被り、人目を避けながら施設の裏手へと回り込む。
──すると、すでに"異変"が起きていた。
施設の警備が、明らかに慌ただしく動いている。
(……ん?)
ゼルヴォードは物陰から様子をうかがう。
「至急確認しろ!"魔力暴走反応"が発生した!」
「学園区画の方向からだ! 何が起きている!?」
(学園……?)
ゼルヴォードの眉がピクリと動く。
──それは、フィルミナが通っている学院の方向だった。
(まさか……フィルミナが巻き込まれてるのか!?)




