第53話:王都の暗闇、仕掛けられた戦闘
「──その話は、もう終わりだ」
ゼルヴォードの背後から、冷たい声が響いた。
暗がりの中から現れたのは、王都研究機関の関係者が雇った冒険者たち。
●敵情報
ランク:シルバー~ゴールド相当(中堅レベルの実力者)
装備:それなりに良質な武具を揃えているが、一級品ではない
目的:"ゼルヴォードにこれ以上の情報を探らせないこと"
リーダー格の男が剣を抜く。
「悪いな、ゼルヴォード。お前には"大人しくしててもらう"」
ゼルヴォードは軽く首を鳴らした。
「……まったく、面倒くせぇな」
──次の瞬間、戦闘が始まった。
剣士が斬りかかる。
──ガンッ!!
ゼルヴォードは片手で剣を受け止め、そのまま拳を突き出した。
──ドゴォッ!!
「ぐはっ!!」
剣士の体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。
「チッ……! 遠距離で仕留めるしかない!」
弓使いが矢を放つ。
──スパッ!!
ゼルヴォードは地面に落ちていた石を指で弾き、矢の軌道を"わずかにずらす"。
「なっ……矢が逸れた!?」
(まぁ、こんなもんか)
ゼルヴォードは一人ずつ"的確に無力化"しながら、少しずつ"ある場所"へと移動していた。
(さて……そろそろ頃合いだな)
彼が向かったのは、"古いダクト通路の入り口"だった。
リーダー格の剣士が、ゼルヴォードを睨みながら叫ぶ。
「逃げられると思うなよ!」
「いや、逃げるぜ?」
ゼルヴォードはニヤリと笑い、壁の"隠しパネル"を押した。
──カシャンッ!!
瞬間、足元の鉄板がスライドし、縦穴が現れる。
「……なんだ、それ!?」
ゼルヴォードは振り向きもせず、縦穴に飛び込んだ。
「おい、待て!!」
敵が飛び込もうとするが──
──ゴゴゴゴゴ……ッ!!
ダクト内部の"滑降式通路"は、狭く、曲がりくねった急斜面になっていた。
その上、内側には"油加工"がされており、滑り落ちる速度は一瞬で加速する。
ゼルヴォードは慣れた動きでバランスを取りながら、疾走するようにダクトを滑り降りる。
(こりゃ、俺専用の逃げ道みてぇなもんだな)
一方、上に残った冒険者たちは、ダクトの入り口を覗き込んだものの──
「……ムリだな」
「こんな狭い通路、下手に飛び込んだら身動き取れねぇぞ」
「チッ……! 逃がしたか!!」
結局、彼らはダクトに突入するのを諦めるしかなかった。
ダクトの出口にたどり着いたゼルヴォードは、軽く息を吐いた。
(まぁ、予想通り追ってこねぇか)
緊急脱出用のこのルートは、古い地下施設に繋がっており、"王都の公式な地図には載っていない"。
知る者しか使えない"隠し通路"だ。
ゼルヴォードはその場に立ち上がり、服についたホコリを払う。
(さて……これで少しは時間が稼げるな)
彼は再び考えを巡らせる。
(王都研究機関は、本気で"魔力最適化技術"を求めてる)
(しかも、裏では"表に出せねぇ研究"をしている可能性もある)
(……だったら、次にすべきことはひとつだ)
「直接、王都研究機関に乗り込む」
ゼルヴォードは静かに笑った。




