第52話:動き出す研究機関、ゼルヴォードの決断
「……今日も、なんか視線を感じる」
フィルミナは学院の廊下を歩きながら、背筋にゾワリとしたものを感じていた。
昨日から続く、この"誰かに見られている感覚"。
しかし、教室や廊下を見回しても、特に怪しい人間はいない。
(やっぱり、あの黒衣の男……?)
フィルミナは思わず胸元のネックレスを握りしめた。
師匠が用意してくれた、魔法処理された皮紐。
それに通された指輪は、彼女の魔力を安定させるだけでなく、心の支えにもなっていた。
(こんなことで怖がっちゃダメ。師匠が守ってくれるって信じてるし、私も頑張らなきゃ)
フィルミナは気持ちを切り替え、教室へ向かった。
一方その頃、鍛冶屋ギルド。
ゼルヴォードは依頼の品を確認していた。
受付嬢が持ってきたのは、細工の施された金属製の腕輪だった。
「……これ、確かに王都の研究機関が作ったやつだな」
ゼルヴォードは腕輪を手に取り、"精融"を発動。
微かな光が走り、腕輪の内部構造が露わになる。
(ほぉ……この構造、"魔力の安定化装置"か?)
しかし、その魔力の流れを辿っていくと、ゼルヴォードの目が鋭くなった。
「……いや、違うな」
この腕輪の"魔力回路"は、どこかフィルミナの指輪と似ていた。
(……これって、もしかして"魔力循環の最適化"を意図的に組み込んだものじゃねぇか?)
ゼルヴォードは腕を組みながら考え込む。
フィルミナの指輪が持っていた"特性"──魔力の流れを最適化し、魔法をスムーズに発動できる効果。
この腕輪も、それと似た構造を持っている。
(……もし、この腕輪が"研究機関の技術"なら……)
フィルミナの指輪の特性を"研究機関側が知っていた"可能性が出てくる。
ゼルヴォードは腕輪を軽く投げながら、受付嬢に聞いた。
「この依頼、持ってきたのはどんなヤツだ?」
受付嬢は少し考えた後、答えた。
「えっと……王都の役人みたいな人でしたね。名乗りはしませんでしたけど、"王都研究機関の関係者"だって言ってました」
(やっぱりな)
ゼルヴォードは鼻を鳴らした。
(ここまで偶然が重なるわけねぇ。こいつは"意図的"な動きだ)
もし研究機関が"本気でこの技術を求めている"なら……
「フィルミナの指輪、ますます狙われる可能性が高いな」
ゼルヴォードは軽く舌打ちをし、立ち上がる。
「ちょいと、裏の情報を探ってくるわ」
「……ゼルヴォードさん、あまり危ないことはしないでくださいね?」
受付嬢が心配そうに言うが、ゼルヴォードは軽く笑って返した。
「大丈夫だ。俺は情報収集が苦手じゃねぇしな」
そう言って、彼は鍛冶屋ギルドを後にした。
(さて……どこから探るかね)




