第51話:狙われた少女、動き出す研究機関
翌日、フィルミナは学院の授業に向かっていた。
昨日、師匠から受け取った指輪は、首元に掛けている。
魔力の巡りが以前よりもスムーズになっており、魔法を発動する際の感覚も明らかに違った。
(これが師匠の調整の力……すごいなぁ)
彼女は少し嬉しくなりながら、教室の席に着く。
しかし──
授業が始まってしばらくした頃、フィルミナは"妙な違和感"を覚えた。
(……なんだろう? なんか、落ち着かない)
周囲の視線が気になる──そんな感覚だった。
だが、教室を見回しても、誰かが特別に自分を見ている様子はない。
(気のせい……かな?)
フィルミナは小さく首を振ると、集中し直した。
授業が終わり、フィルミナは学院の廊下を歩いていた。
「フィルミナ、お疲れ!」
友人の一人が声をかけてくる。
「お疲れさま!」
彼女は明るく返事をしながらも、まだ"違和感"が消えなかった。
(……やっぱり誰かに見られてる気がする)
その時──
スッ……
ほんの一瞬、視界の端で"黒衣の男"の姿が見えた。
(……えっ?)
しかし、次の瞬間には、もうその姿はどこにもなかった。
(今の……気のせいじゃないよね?)
フィルミナは背筋がひやりとするのを感じた。
(もしかして……あの研究機関の人?)
昨日、師匠が言っていたことを思い出す。
──「その指輪を誰かに"簡単に見せるな"」
(やっぱり、狙われてるの……?)
不安を感じながらも、フィルミナは学院を後にした。
一方、ゼルヴォードは鍛冶屋ギルドにいた。
鍛冶場では職人たちが忙しなく作業をしている。
ゼルヴォードはカウンターの前に立ち、受付嬢と話していた。
「珍しいですね、ゼルヴォードさんが依頼の確認なんて」
「まぁな。ちょっと気になることがあってな」
彼が手に持っていたのは、"奇妙な依頼書"だった。
● 依頼内容
「特殊な加工を施した魔道具の修理」
・報酬:金貨100枚(破格の額)
・依頼人:不明(ギルド経由での匿名依頼)
・依頼品:王都製の魔道具(詳細は現物確認)」
ゼルヴォードは依頼書をじっと見つめる。
(……妙に報酬が高ぇな)
普通、魔道具の修理でこんな大金が支払われることはない。
(しかも"匿名依頼"……胡散臭さしかねぇ)
受付嬢も困った顔をしている。
「実は、この依頼……他の鍛冶師の方々にも回したのですが、"請けたがらない"んです」
「へぇ?」
「どうやら、"何かしらの圧力"がかかっている可能性があると……」
ゼルヴォードは依頼書を指で弾いた。
(王都の"魔道具"……それに高額報酬、そして"圧力"か)
(……このタイミングで出てきたってことは、"昨日の件"と関係してる可能性があるな)
ゼルヴォードは静かに息を吐いた。
「……まぁ、とりあえず現物を見せてもらおうか」
受付嬢は頷き、奥の倉庫から"依頼品"を持ってきた。
そして、その魔道具を見た瞬間──
ゼルヴォードの目がわずかに鋭くなる。
(……これは、"見覚えがある代物"だ)




