第49話:フィルミナの想い、指輪の解析と改良
鍛冶屋ギルドを後にしたゼルヴォードとフィルミナは、家へ帰宅していた。
時間は夕方。
食卓には、ギルドの職人たちから分けてもらったパンとシチューが並んでいる。
「いただきます!」
フィルミナは元気よくスプーンを手に取り、シチューを一口すする。
「ん〜、やっぱりギルドの食材って美味しいですね!」
ゼルヴォードはパンをちぎりながら、フィルミナをじっと見た。
「で、お前。今日の授業はどうだった?」
「えっと……」
フィルミナは少し考えながら、にっこりと微笑んだ。
「すごく楽しかったです! 指輪も先生に褒められたし、クラスのみんなも"すごいね"って言ってくれました!」
「ほぉ、そりゃよかったな」
ゼルヴォードは頷きながら、わざと少し意地悪そうに笑う。
「それで? あの指輪、どんな気持ちで作ったんだ?」
「えっ?」
フィルミナはスプーンを止め、少し考え込んだ。
「ん〜……"誰かの役に立てたらいいな"って思ってました」
「誰かの、ねぇ」
ゼルヴォードは興味深そうにフィルミナを見つめる。
「戦闘用の魔道具じゃなくて、補助系の指輪を作ったのも、そういう理由か?」
「はい! 私、戦うのはまだ苦手だから……」
「……そうか」
ゼルヴォードはシチューを口に運びながら、フィルミナの言葉を反芻した。
(戦うことより、"支える"ことを選んだか)
ゼルヴォード自身は、鍛冶師として"武器"を作ることを選んできた。
だが、フィルミナは違う道を歩もうとしている。
「いいんじゃねぇか?」
「えっ?」
「お前が"誰かの役に立つため"に作ったもんなら、それで十分だろ」
フィルミナは少し驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。
「はい!」
食事を終え、フィルミナが部屋に戻った後──
ゼルヴォードは食卓に残り、テーブルの上に指輪を置いた。
「さて……ちょいと拝借するぜ」
彼は指輪を手に取り、じっくりと観察する。
魔道具名:『魔力補助リング(試作型)』
・ランク:C+
・効果:使用者の魔力量を一時的に増強し、一定時間魔法の発動をサポート
・特性:戦闘ではなく、長時間の魔法作業向け(回復や錬金術など)
ゼルヴォードは軽く息を吐き、スキルを発動させた。
「精融」
指輪が微かに光り、その構造が"視覚化"される。
透き通るような魔力回路が、ゼルヴォードの視界に広がった。
「……なるほど」
確かに試作品ということもあり、一部の魔力回路が不安定だ。
だが、"構造そのもの"はしっかりしている。
「……いい出来だ」
しかし、ゼルヴォードの表情が徐々に険しくなっていく。
「……これは、なんだ?」
指輪の内部、魔力の流れの"中心部分"に、奇妙な領域があった。
そこだけ、まるで"外部干渉を拒絶している"かのように、ゼルヴォードの力が及ばない。
スキル"精融"を使っても、解析できない"未知の領域"がある。
ゼルヴォードは何度か手を動かし、そこへ干渉しようとする。
しかし、どんなに細かく調整しても、その部分には手が届かない。
(まるで、"意志"を持っているみてぇだな……)
ゼルヴォードは、じっと指輪を見つめながら考える。
「……フィルミナの"想い"か?」
彼女が誰かのために作ったという気持ちが、知らず知らずのうちに魔道具へ影響を与えた可能性がある。
それこそが、王都研究機関の男が興味を示した"特性"なのかもしれない。
(面白ぇ……。お前は、もう立派な"職人"だな、フィルミナ)
ゼルヴォードは薄く笑うと、それ以上その領域に干渉することをやめた。
「ま、俺がいじれる部分だけ手を加えてやるか」
ゼルヴォードは"精融"を維持しながら、慎重に指輪へ手をかざす。
「まずは、不安定な魔力回路を補強する」
指先から微細な魔力を流し込み、歪んでいた魔力の流れを整えていく。
「次に……"干渉防止刻印"の追加だな」
ゼルヴォードは左手で魔道刻印を描きながら、それを指輪へと流し込む。
魔道具名:『魔力補助リング・改良型』
・ランク:B(試作品より向上)
・効果:魔力量増強+魔力の流れを自動調整し、安定性を向上
・特性:外部からの魔力干渉を拒絶する"対策刻印"を追加
・追加要素:不正な魔力干渉があった場合、"警告反応"を発する
「さて……明日、フィルミナに渡すとするか」
本日(3/4)は次の日まで1時間おきに予約してあります。
どうぞ楽しみにして下さい。




