第41話:異常な武器、鉄の処刑人の最期
"殺しの鍛冶師"の亡骸を背に、ゼルヴォードはゆっくりと鍛冶場の奥へと歩を進めた。
この工房には、何か"異質な空気"が漂っている。
血と鉄の匂いに混じり、微かに漂う"魔力"の残滓──。
(……こいつ、何を作ろうとしてた?)
ゼルヴォードは壁際に並ぶ未完成の武器を一つ手に取る。
──ゴォォ……ッ
刃の表面に奇妙な紫色の光が揺らめいた。
「……なるほどな」
彼は刃を指で弾く。
──キィィン……
まるで"生きている"かのような反応。
刃は淡く振動し、微かに"魔力"を吸収しているように見えた。
(……これは"呪詛武器"か? いや、それにしちゃ反応が異常だ)
ただの"魔法剣"ではない。
何かが"根本的に"違う。
ゼルヴォードは工房の机の上に並ぶ書類を手に取る。
そこには、"殺しの鍛冶師"が遺した研究資料が残されていた。
「……"刻印技術"……?」
紙には、異常な"鍛冶技術"が記されていた。
"刻印技術"(エングレイヴ・フォージ)
・武器の素材に"生命力"を刻み込むことで、自律的な魔力循環を持たせる技術
・通常の魔法武器よりも"使用者に依存せず"高い性能を発揮する
・しかし、同時に武器が"使用者の魔力を吸収する"リスクを持つ
(……要するに、"呪いの武器"に近いな)
ゼルヴォードは静かに資料を置いた。
(こいつ……"魂鋼"の技術を知らねぇくせに、無理やり魔力を刻み込もうとしたのか)
彼の視線が、再び未完成の剣に向かう。
ゼルヴォードは試しに少しだけ魔力を流し込んだ。
──ギィ……ギギィィィ……!!
剣が異常な震動を始める。
(……やはり)
この武器は、"使用者を蝕む"仕組みになっている。
つまり、"呪われた剣"そのもの。
(……これは、このまま残しておくべきじゃねぇな)
ゼルヴォードは静かに剣を持ち上げ、工房の炉に近づいた。
「……消えてもらうぜ」
ゼルヴォードは未完成の武器を炉に投げ入れる。
──ゴォォォォッ!!!
刃が焼け、"異常な魔力"が弾ける。
「ぐ、ぎゃああああ……!!」
まるで**"何かの魂"が断末魔を上げるような声**が響く。
しかし、それはただの残留魔力の悲鳴にすぎない。
──次の瞬間、武器は完全に消滅した。
ゼルヴォードは静かに火を見つめ、最後の仕上げに工房全体を確認する。
(他に危険な武器は……無いな)
彼は軽く息を吐き、踵を返した。
(これで"鉄の処刑人"は完全に終わり、か)
工房の外へ出ると、夜の静寂が戻っていた。
「……ギルドは、後で知ることになるだろうな」
ゼルヴォードは何食わぬ顔で黒鉄街を後にした。
「オルグさん、ちょっと大変です!」
翌朝、冒険者ギルドの受付嬢が慌てた様子で報告を持ってきた。
「何だ?」
「黒鉄街の裏工房が……"何者かによって壊滅"していました!」
オルグ・フェンリルは紅茶を口に運びながら、片眉を上げる。
「へぇ……」
「しかも、"鉄の処刑人"のリーダーが殺されていたとのことで、警備隊も動いています!」
オルグはしばらく黙っていたが、やがてニヤリと笑った。
「……ま、"誰がやったのか"なんて、考えるまでもねぇな」
彼は窓の外を眺める。
(アイツの仕業だろうが……しばらく黙っておくか)
オルグは静かに微笑みながら、ギルドの報告書にサインを入れた。
「とりあえず、"誰がやったかは不明"ってことで処理しとけ」




