第37話:盗賊団の背後、影を追え
──夜の王都郊外、山道。
ゼルヴォードの周囲には、倒れた盗賊たちが転がっていた。
「……もう少し粘るかと思ったが、拍子抜けだな」
剣を軽く振り、血を払う。
(さて、どうするか)
全員を始末するのは簡単だったが、"情報"が欲しい。
ゼルヴォードは呻きながら動こうとした男の襟を掴み、無造作に引きずった。
「ぐ、うぅ……な、なんだてめぇ……」
「質問がある」
ゼルヴォードは冷静に言う。
「お前たち、どこで武器を調達してる?」
盗賊の男は一瞬目を泳がせた。
「……し、知らねぇよ!」
「なら、別の奴に聞く」
ゼルヴォードは男の首根っこを掴んだまま、倒れている別の盗賊に視線を向けた。
「おい、そっちのテメェはどうだ?」
「っ……!?」
男の顔が青ざめる。
ゼルヴォードは力を込め、軽く拳を振るった。
──ドゴッ!!
「ぐ、ふぅ……っ!!」
男は地面に崩れ落ち、身体を震わせる。
「……どうする? まだ話す気はないか?」
「く、くそっ……! 俺たち、ただのチンピラじゃねぇんだぞ……!」
「ほぉ」
ゼルヴォードは無表情のまま、男の腕を掴む。
「なら、"ただのチンピラ"じゃねぇって証拠に、話してみろよ」
「っ……わ、わかった! 話す!話すから!!」
ゼルヴォードは腕を離し、男を地面に押し倒した。
「……で?」
盗賊は呼吸を整えながら、小さく呟いた。
「……王都の"黒鉄街"……そこのヤツらが、俺たちに武器を回してる……」
「黒鉄街?」
ゼルヴォードの眉がわずかに動いた。
王都の"黒鉄街"──それは、表向きは鍛冶職人たちの市場だが、裏では闇取引が行われている場所だった。
(なるほどな……"鍛冶技術の流出"が関係してるのか)
ゼルヴォードは盗賊をじっと見つめた。
「……その"黒鉄街"の誰と繋がってる?」
盗賊は口をつぐむ。
ゼルヴォードは軽く剣を構えた。
「次の答えが"知らねぇ"だったら、もう話す機会はないぞ」
「っ……"ヴァレス"……! "黒鉄街のヴァレス"って奴が、俺たちに武器を渡してる……!」
ゼルヴォードは盗賊を見下ろしながら、その名前を反芻する。
(ヴァレス……黒鉄街の中堅どころの鍛冶職人だったはずだが)
彼は"普通の職人"ではない。
裏のルートで武器を流すことで知られていた。
だが──
(……単なる武器売買じゃねぇな)
王都の鍛冶市場には厳格な管理体制がある。
まともな武器職人なら、盗賊への武器供給なんてリスクの高いことはしないはず。
にもかかわらず、ヴァレスはこの件に関与している。
(誰かがヴァレスを動かしてる……か)
ゼルヴォードは剣を収め、盗賊の男に最後の問いを投げかけた。
「……黒鉄街で、"ヴァレス"以外に名前を聞いたことは?」
盗賊は首を振る。
「いや……あいつが直接仕切ってるって話しか……」
「そうか」
ゼルヴォードは盗賊を放し、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ、ここまでだ」
「ひっ……!」
盗賊たちは恐怖に顔を歪めたが、ゼルヴォードはそれ以上の追及はせず、背を向けた。
「警備隊にでも捕まるんだな」
彼はその場を去りながら、軽く呟いた。
(次の目的地は決まったな……)
──"黒鉄街"へ行く。




