第36話:ギルドの依頼、そして戦闘の気配
王都冒険者ギルド。
ギルド内はいつものように賑わっていた。
依頼を確認する冒険者たち、受付で手続きを進める者、酒を飲みながら雑談するベテラン勢。
ゼルヴォードはそんな喧騒の中、ギルドの掲示板へと目を向けた。
「……ふむ」
数多くの依頼が張り出されていたが、特に目を引いたのは"特別依頼"の文字。
【特別依頼:王都近郊の山道で頻発する盗賊事件の解決】
【依頼主:王都警備隊】
【内容:盗賊団の拠点を特定し、制圧せよ】
【難易度:A】
「……ほう」
ゼルヴォードは掲示板の前で足を止めた。
(盗賊の活動が活発になっている、か……)
確かに最近、王都周辺では物資の輸送が滞ることが増えていた。
鍛冶ギルドでも「注文した鉄材が届かない」との声があったが、どうやらその原因は盗賊団のようだ。
「ゼルヴォードじゃねぇか」
後ろから低い声が聞こえた。
振り返ると、そこにはサブギルドマスターのオルグ・フェンリルが立っていた。
「何か依頼でも探してるのか?」
ゼルヴォードは軽く肩をすくめる。
「いや、たまたま目についただけだ」
「……へぇ?」
オルグは意味深な笑みを浮かべながら、依頼の紙を指で弾いた。
「まあ、最近はちょっと面倒な話が多いからな……特にコイツはな」
「盗賊の件か?」
「ああ。警備隊も動いてるが、奴らの拠点を完全に特定できてねぇ。
それに、"ただの盗賊団"とは思えねぇ節がある」
「……妙に装備が整ってる、とかか?」
オルグは驚いたようにゼルヴォードを見た後、苦笑した。
「察しがいいな。その通りだ」
彼は低く呟く。
「最近、襲われた商隊の話を聞いたが……奴ら、"妙に精巧な武器"を持っていたらしい」
ゼルヴォードの目が細まる。
「武器、ねぇ……」
鍛冶師として、戦場の流れを決めるのは"武器の質"だとよく知っている。
通常、ただの盗賊団が高品質な武器を大量に持つことはありえない。
「……"誰か"が裏で支援しているのかもな」
「俺もそう思ってる」
オルグは腕を組みながら、依頼書を軽く叩いた。
「正直な話、"この盗賊団を片付けた奴が、裏にいる黒幕に近づくことになる"って気がしてな」
ゼルヴォードは一瞬考え込んだ後、軽く笑った。
「……で?」
「何が"で?"だ」
「俺に、この件に首を突っ込めってか?」
オルグはニヤリと笑う。
「いやいや、鍛冶屋さんには関係ねぇ話だろ?」
「……」
ゼルヴォードはオルグの言葉を聞きながら、ゆっくりと依頼書を眺めた。
(……鍛冶師としても、これは放っておけねぇな)
彼は考え込むと、小さく呟いた。
「まあ、ちょっと様子見ってことで」
「へぇ……」
オルグは何も言わず、ただ笑っていた。
王都の夜
その夜。
ゼルヴォードは王都の外れにある山道へと向かっていた。
(盗賊が動いているなら、そろそろだな)
夜の闇の中、ひっそりと足を進める。
そして──
ガサッ!
草むらが揺れた。
「……ん?」
ゼルヴォードが反応した瞬間、影が飛び出してきた。
「そいつを置いていけ!」
現れたのは、フードを被った数人の男たち。
盗賊か……それとも、ただのゴロツキか?
ゼルヴォードは静かに剣の柄に手をかけた。
「俺に喧嘩を売るとは……いい度胸してんな」
男たちはニヤリと笑いながら武器を構えた。
「黙って差し出しゃ、痛い目見ずに済むぞ?」
「……はぁ」
ゼルヴォードは軽くため息をついた。
(……久々に、ちょっと身体を動かすか)
──シュバッ!!
次の瞬間、ゼルヴォードの剣が一閃した。
「ぐ、あっ!?」
一人が吹き飛び、地面に転がる。
他の盗賊たちが驚き、すぐに剣を振り上げるが──
「遅ぇよ」
ゼルヴォードは軽く身を引き、敵の攻撃を回避すると、逆に踏み込んだ。
──ドゴォッ!!
拳が盗賊の腹に突き刺さり、そのまま地面に沈める。
「な、何だコイツ!?」
残った二人が後ずさるが、ゼルヴォードはニヤリと笑う。
「もう遅ぇよ」
──次の瞬間、静寂が訪れた。
盗賊団、全滅。




