第31話:フィルミナ・カレグス、学院へ
◆ 王都魔術学院の門前
「……ここが、王都魔術学院……」
フィルミナは学院の正門の前に立ち、深く息を吸った。
学院の校舎は白と青を基調とした壮麗な建築で、空には魔法障壁が張られており、魔力を感じさせる輝きがゆらめいている。
周囲には同年代の生徒たちが行き交い、それぞれの授業へ向かっていた。
(……緊張する)
フィルミナは今まで研究施設で閉じ込められていた。
こうして"普通の学校"に通うのは、彼女にとって未知の体験だった。
「さて、入学手続きだな」
ゼルヴォードが横で腕を組みながら言う。
「ほら、お前も行くぞ」
「う、うん……!」
学院の受付カウンター。
魔道士ギルドの職員が手続きを進めながら、フィルミナに尋ねた。
「では、お名前をお願いします」
フィルミナは一瞬だけ迷った後、心を決めて答えた。
「……フィルミナ・カレグス、です」
職員はペンを走らせながら、特に気にすることもなく頷いた。
「はい、登録完了です。配属は魔道具科ですね?」
「はい」
職員はさらりと手続きを進める。
(……あれ? 意外と普通の反応?)
少し拍子抜けしながら、フィルミナはゼルヴォードを見上げた。
彼は小さく笑いながら肩をすくめた。
「安心しろ。俺の名前がそこまで王都じゃ知れ渡ってるわけねぇよ」
確かに、ゼルヴォードはつい最近この王都に来たばかりの鍛冶師だ。
知名度はそこまで高くなく、一部の鍛冶職人や冒険者の間で話題になり始めた程度だった。
とはいえ、鍛冶ギルドのギルマスターであるグレイヴは、ゼルヴォードの実力を見抜き、彼の名を広めようとしていた。
(ギルマスが広めたことで、鍛冶ギルド関係者や一部の貴族には知られているかもしれない……)
だが、魔術学院ではただの"新入生の一人"として受け入れられた。
フィルミナは安心しつつ、小さく微笑んだ。
(私も、普通の生徒としてここでやっていけるんだ)
◆ 魔術学院の仕組み
学院にはいくつかの"科"がある。
・魔術科 → 一般的な魔法の学習(攻撃魔法・防御魔法・補助魔法)
・魔道具科 → 魔道具の仕組みや制作、鍛冶と魔術の関係を学ぶ
・研究科 → 理論中心の魔法研究・古代魔法の解析など
フィルミナは「魔道具科」に入ることに決まった。
「君、鍛冶師なんでしょう? だったらここの方が向いてると思うわ」
案内をしてくれたのは、魔術学院の教師であるセリア・アルヴェインという女性だった。
「魔道具と鍛冶の融合には、"魔法の理解"が欠かせないのよ。基礎からしっかり学びなさい」
「……はい」
フィルミナは少し緊張しながらも、魔道具科のクラスへと向かった。
フィルミナが教室に入ると、すでに何人かの生徒が集まっていた。
「おっ、新入生?」
「珍しいな、ダークエルフの子が来るなんて」
すぐに数人が彼女の方を見て、興味を持った様子だった。
そこで、特に目を引いたのが二人の生徒だった。
金髪碧眼の人間の少女
黒髪で冷静な眼差しの獣人の少年
「ねえ、あなた名前は?」
金髪碧眼の少女が、興味津々にフィルミナへ話しかけてきた。
「フィルミナ……フィルミナ・カレグス」
「カレグス? 聞いたことない名前ね」
「……まぁ、最近王都に来たばかりだから」
少女は目を輝かせながら、笑顔を見せた。
「へぇー! すごいじゃん! 私はリヴィア・エインズワース。よろしくね!」
●新キャラ紹介
1. リヴィア・エインズワース(Livia Ainsworth)
種族:人間(貴族の娘)
特徴:社交的で明るく、すぐに人と仲良くなる性格
実はお嬢様だが、それを鼻にかけるタイプではない
魔道具の研究に興味があり、特に「魔力を増幅する装置」に強い関心を持っている
●カイン・フェルガル(Kain Felgar)
種族:獣人(黒狼族)
特徴:寡黙で冷静、論理的な思考を持つ
戦闘よりも「鍛冶と魔術の理論」を追求するタイプ
魔力適性は低いが、その分技術と知識で補っている
カインは少し距離を取るように腕を組みながらも、静かに頷いた。
「……まぁ、よろしく頼む」
フィルミナは戸惑いながらも、どこか安心した。
(ここなら、私も"普通の生活"ができるかもしれない)




