第28.1話:魔石の適性と鍛冶の試行錯誤
——コン、コン
扉を叩く音が響いた。
ゼルヴォードは鉄槌を置き、目を細める。
この時間に訪れるのは、厄介事を持ち込む奴と相場が決まっている。
「…入れ」
扉が開き、現れたのは黒い外套を羽織った男だった。
年齢は30代前半。服は使い込まれており、冒険者特有の疲れが滲んでいる。
「鍛冶師ゼルヴォードか?」
「ああ、そうだが」
男は無言のまま袋を置く。
中から転がり出たのは、青紫色の輝きを持つ魔石。
ゼルヴォードはそれを拾い上げ、眉をひそめた。
「……雷撃蜥蜴の魔石か」
その特性は、微弱な雷の発生と軽量性。
しかし、魔力の制御が難しく、「使い手を選ぶ魔石」でもある。
「これを使って、武器を作ってくれ」
ゼルヴォードは腕を組み、じっと男を見つめた。
「……どういう目的だ?」
男——レヴィン・クロイスは、しばし沈黙した後、静かに答えた。
「……新しい武器が必要なんだ」
そう言って、彼は腰から短剣を抜いた。
刃は所々欠け、柄にはいくつもの補修の跡が見える。
ゼルヴォードは短剣を受け取り、じっくりと観察する。
「……随分と使い込んでるな」
「相棒の形見だ」
レヴィンはポツリと呟いた。
「一年前、探索依頼に失敗して、仲間を失った……。それ以来、新しい武器を持つ気になれなかった」
ゼルヴォードは無言のまま、短剣の柄を握りしめる。
使い込まれた武器は、戦士の生き様そのものだ。
レヴィンは続ける。
「けど、そろそろ決めなきゃならない。もし新しい武器を持てないなら……」
彼は言葉を切り、目を伏せる。
——「冒険者を引退する」
言葉にはしないが、彼の態度からそれが読み取れた。
ゼルヴォードは深いため息をつき、雷撃蜥蜴の魔石を指で弾く。
「……なるほどな」
この依頼は、単なる武器作りじゃない。
「戦士が、新たな一歩を踏み出すための武器」を作ることが求められている。
「いいだろう。だが、その魔石は簡単な素材じゃねぇぞ?」
「分かってる。でも……この魔石を使いたいんだ」
レヴィンの決意は固い。
ゼルヴォードは炉の温度を確認し、ゆっくりと頷いた。
「とりあえず、試作から始める」
いきなり短剣を作るのはリスクが高い。
まずは、魔石の魔力流動を確認するため、小型の装備を試作する。
● 試作目標:「雷撃を制御する指輪」
● これが成功すれば、短剣への応用が可能になる!
「さぁて……やるか」
ゼルヴォードは鉄槌を手に取り、新たな鍛造を始める。
レヴィンが再び戦うための「新しい武器」を生み出すために——




