第28話:魔鋼適性と鍛冶の真髄
工房の炉の火が揺らめく中、ゼルヴォードはカウンターの棚を開け、ゴトリと何かを取り出した。
「おい、フィルミナ。お前の"魔鋼適性"とやらがどれほどのもんか試す前に、まずは"基準"を知っとけ」
「基準……?」
フィルミナが首を傾げると、ゼルヴォードは無造作に一本の短剣を投げてよこした。
フィルミナは慌ててキャッチし、驚いたように短剣を見つめる。
──刃の部分が半透明の青い鉱石で作られており、光の角度によって幽玄な輝きを放っていた。
「……これ、普通の武器じゃない……?」
アステリアも興味深そうに短剣を覗き込む。
「これは……"ミスリルガラス"を刃に使っているのね?」
ゼルヴォードはニヤリと笑いながら、別の棚を開けた。
「そいつは"青霧狼"の魔石を溶かして鋳造した短剣だ。
特性は"魔力伝導率の向上"と"軽量化"……まぁ、そこらの魔法剣とは一味違うぜ」
■ 過去に作った武器:『蒼霧の刃』
ランク:A-
素材:ミスリルガラス × 青霧狼の魔石
効果:魔力伝導率の向上 / 軽量化 / 斬撃時に微量の霧を発生
フィルミナは短剣を握りしめながら、呆然と呟いた。
「……こんな武器、本当に作れるんだ……」
ゼルヴォードは次に、工房の奥から別の武器を取り出した。
今度は巨大な戦槌だった。
「そんでこっちは"紅蓮鉱"と"サラマンダーの角"を使った武器だ。"炎属性"を持ってる」
■ 過去に作った武器:『焔砕』
ランク:A+
素材:紅蓮鉱 × サラマンダーの角
効果:振るうごとに熱を蓄積し、衝撃と共に炎の爆発を発生
アステリアは目を丸くしてゼルヴォードを見つめた。
「……驚いたわね。普通、"鍛冶師"はここまでのものを作れるものじゃないわ」
ゼルヴォードは肩をすくめる。
「まぁ、俺は普通の鍛冶屋じゃねぇからな」
アステリアは戦槌を見つめながら、考え込むように言った。
「本来の目的を忘れそうになってしまったけど……今日は"ある依頼"を持ってきたの」
ゼルヴォードは興味なさそうに炉の火を調整しながら応じる。
「ほう、魔道士ギルドのギルマス様が、鍛冶屋に何の用だ?」
アステリアは懐から、一つの魔道具を取り出した。
「この"古代の杖"を修復してほしいのよ」
ゼルヴォードはそれを受け取り、じっくり観察した。
杖の先端には、ヒビの入った水晶が埋め込まれており、柄の部分は見たこともない金属で作られていた。
(……こいつ、ただの杖じゃねぇな)
ゼルヴォードは小さく笑う。
「……ほう、面白ぇじゃねぇか」
ゼルヴォードはアステリアの依頼を一旦棚に置き、フィルミナに向き直る。
「お前も見ただろう。魔鋼適性を持つってことは、こういう"魔法適性の武器"を作る可能性があるってことだ」
フィルミナは短剣や戦槌を見つめながら、真剣な表情になった。
「……私にも、作れるようになる?」
ゼルヴォードはニヤリと笑った。
「俺が鍛えりゃな」
フィルミナは小さく息を飲み、頷いた。
(……もっと学びたい)
彼女の目には、確かな決意が宿っていた。
秘められた謎が明らかに……?




