第23話:格の違い
──ズンッ!!
巨大な剣が振り下ろされる。
空気が震え、床が砕けるほどの衝撃。
エリックは息をのむ。
「な……ッ!!?」
もし今の攻撃をまともに受けていたら、粉々になっていたはずだ。
しかし──
「遅ぇな」
ゼルヴォードは、ただの一歩で攻撃を躱していた。
(この速度……!?)
エリックは信じられないものを見たような顔をする。
ゼルヴォードの動きは、まるで"戦場を知り尽くした者"のようだった。
「……命令を継続。"適合者"の捕獲を──」
人造兵士は再び構え直し、ゼルヴォードを狙う。
だが、その様子を見て、ゼルヴォードは鼻で笑った。
「……なんだ、お前」
人造兵士の大剣が振り上げられる。
だが、ゼルヴォードは動かない。
それどころか、肩の力を抜き、片手で剣を担いだままだった。
「こんな不良品で……俺を止められるとでも思ってんのか?」
「……」
人造兵士はゼルヴォードの言葉に反応せず、攻撃を開始する。
──ズバッ!!
今度は回転斬り。
力と遠心力を乗せた、強烈な一撃。
──しかし。
──カキィン!!
「っ!?」
ゼルヴォードは剣の"側面"だけで攻撃を受け流していた。
その場から一歩も動かず、ただ、軽く腕を動かしただけで。
エリックが呆然とする。
(……こいつ、今ので全く力を込めてねぇ!!)
まるで、子供の遊びを見ているような余裕。
人造兵士が再び攻撃を繰り出す。
ゼルヴォードは、それを完全に見切り、受け流し続ける。
──カンッ、カンッ、カンッ……
音が響くたびに、ゼルヴォードが圧倒的に優位に立っていることが明らかになる。
「……つまんねぇな」
ゼルヴォードは軽く息を吐くと、剣を肩に担ぎ直した。
「お前みてぇな半端モンは、所詮"模造品"だ」
「……ッ!!」
「俺はな、"本物の異界の脅威"とやり合ってきたんだよ」
ゼルヴォードの脳裏に、一瞬、過去の戦場が蘇る。
──世界の理すら歪ませる、"異界の怪物"たち。
──人間の枠を超えた、"絶望そのもの"。
──戦場の大地が血と肉で染まり、魔物の咆哮が空を裂いた。
(……あれに比べれば、こいつなんざ"おもちゃ"みてぇなもんだ)
ゼルヴォードは、不敵に笑った。
「本物の異界の化け物ってのはな──」
「"殺気を感じた瞬間には、もう首が飛んでる"んだよ」
エリックが背筋を震わせる。
「……ッ!?」
(今の……ゼルヴォードさんの目……!!)
まるで、"死を司る戦士"のような視線だった。
その瞬間──
ゼルヴォードの空気が変わる。
人造兵士が再び剣を振るう。
──ズバァッ!!
その斬撃は、まるで風を断つような鋭さだった。
だが、次の瞬間。
──"ゼルヴォードの姿が消えた"。
「……ッ!?」
人造兵士は戸惑いながら周囲を見渡す。
エリックも、一瞬何が起きたのか理解できなかった。
(ゼルヴォードさんが……消えた!?)
いや、違う。
──ゼルヴォードは"すでに"動いていたのだ。
そして、次の瞬間──
──ズンッ!!
ゼルヴォードの剣が、人造兵士の"胴体"を叩きつける。
「……ッ!!」
──ゴゴゴォォォン!!!
床が砕け、人造兵士の巨体が"吹き飛んだ"。
一瞬だった。
人造兵士は壁に叩きつけられ、そのまま床に転がる。
「……分析不能……」
ガクッ、と膝をつく。
(たった……一撃で……!?)
エリックは、ただ呆然と立ち尽くす。
ゼルヴォードは剣を軽く振り、ため息をついた。
「ったく、見た目だけデカくしても、強くなるわけじゃねぇんだよ」
人造兵士は膝をついたまま、ガクガクと体を震わせていた。
「……修復不可能……戦闘継続、不能……」
ゼルヴォードはニヤリと笑う。
「お前も"おととい来やがれ"って言っとくぜ」
その言葉を最後に、人造兵士の光が消えた。
エリックは震える手で剣を握りながら、ゼルヴォードを見た。
「……ゼルヴォードさん、今の……」
ゼルヴォードは肩をすくめる。
「別に"本気"じゃねぇよ」
「っ……!!」
(今の動きで、本気じゃない……!?)
エリックはゼルヴォードの背中を見つめながら、改めて理解する。
(この人……一体、どのランクだったんだ?)
ゼルヴォードは、そんなエリックの様子に気づきながら、通路の奥を見つめる。
「……さぁて、"実験の核心"はもうすぐそこだな」




