第21話:絶望の境界
──キィンッ!!
倉庫内に金属音が響く。
ゼルヴォードの黒鋼のロングソードと、デガルの短剣が交差していた。
火花が散り、デガルがニヤリと笑う。
「ほう……俺の攻撃を防ぐか」
「当たり前だ。お前の動き、雑すぎるぜ?」
ゼルヴォードは軽く笑いながら剣を構え直した。
(こいつ、速さはあるが……力が足りねぇ)
デガルは短剣を巧みに操りながら、再び間合いを詰める。
──シュンッ!
一瞬でゼルヴォードの背後へ回り込み、短剣を突き出した。
「もらっ──」
──ガキンッ!!
「なっ!?」
デガルの短剣は、ゼルヴォードの剣の"柄"に正確に弾かれていた。
ゼルヴォードは微動だにせず、視線だけでデガルを見下ろしている。
「……何だ、今の防御……!?」
「防御? いや、ただの"見切り"だ」
デガルの顔が歪む。
(完全に読まれた……!?)
デガルは冷や汗を流しながら、再び姿勢を低くする。
「……速さが足りねぇなら、もっと上げるだけだ!」
彼は短剣を逆手に構え、猛然と連撃を繰り出した。
──シュババババッ!!
目にも止まらぬ速さの斬撃が、ゼルヴォードに襲い掛かる。
……だが。
──カンッ、カンッ、カンッ……
「は?」
デガルの短剣はすべて正確に弾かれていた。
ゼルヴォードは、一歩も動かず、剣の角度だけで"受け流している"。
「そんなんで勝てると思ってんのか?」
「なっ……!?」
デガルの顔が青ざめる。
(こいつ……反応が異常だ……!)
(いや、それだけじゃない……俺の"動きそのもの"を読んでる!?)
ゼルヴォードは軽く溜息をつき、剣を肩に担いだ。
「お前、"速い"だけだろ?」
「……っ!」
「速ぇのは確かにすごいがよ……それだけじゃ、戦いには勝てねぇんだよ」
デガルは焦りながら、再び突進しようとする。
しかし──
ゼルヴォードの手が、一瞬だけ淡く輝いた。
「……!? なんだ、今のは……」
(体が、動かねぇ!?)
デガルは理解できなかった。
目の前のゼルヴォードが、まるで"絶対的な存在"のように見えた。
ゼルヴォードはニヤリと笑い、剣を軽く振る。
──シュゥゥ……
彼の剣が"わずかに赤熱する"。
「試しに、一太刀くらい喰らってみるか?」
「っ!!」
デガルの背筋が凍りつく。
(この剣……やばい!!)
本能が、"この一撃を喰らえば終わる"と警告を発していた。
「……クソッ!」
デガルは即座に後方へ跳び、距離を取った。
ゼルヴォードはその様子を見て、軽く笑う。
「やっと"命の価値"に気づいたか?」
「っ……!!」
デガルの手が震える。
(こんなの……戦いじゃねぇ)
(これは……"勝てない絶望"だ……!)
ゼルヴォードは剣を鞘に戻しながら、肩を回した。
「おい、デガルとか言ったな」
デガルは警戒を解かず、いつでも逃げられる体勢を取っている。
ゼルヴォードはニヤリと笑い、こう言い放った。
「"おととい来やがれ"」
「っ!!」
デガルは歯を食いしばり、拳を握る。
「……クソッ!!」
そして、全力で後方へ跳び、倉庫の窓を突き破って逃げ去った。
エリックが驚いたようにゼルヴォードを見る。
「……いいんですか? 逃がして」
ゼルヴォードは肩をすくめる。
「ああ、殺す価値もねぇ」
「……強すぎる……」
エリックは思わず呟いた。
さっきの戦闘は、戦いですらなかった。
ゼルヴォードの余裕が、まるで絶対的な支配者のように見えた。
(……俺は、どれだけ未熟なんだろうな)
エリックは自分の剣を握りしめながら、決意を固める。
(このままじゃ……いつまで経っても足手まといだ)
ゼルヴォードは最後に倉庫内を見渡し、何か手がかりがないか探る。
すると、壁に何かが刻まれているのを発見した。
「……これは」
ゼルヴォードは刻まれた文字を指でなぞる。
"第五研究区画"
ゼルヴォードは小さく笑った。
「……追跡は、まだ終わらねぇな」




