第14話:受け継がれる剣
ゼルヴォードは工房の作業台にエリックの片手剣を置き、じっくりと観察した。
(刃こぼれが多いな……鍛え直せばまだ使えるが、強度の劣化が気になる)
「エリック、お前の師匠ってのは、どんな奴だったんだ?」
ゼルヴォードが何気なく尋ねると、エリックは少し驚いた表情を浮かべた。
「……師匠のこと、気になるんですか?」
「お前がそこまでこの剣にこだわる理由を知っときたくてな」
エリックは片手剣を見つめながら、静かに語り始めた。
「俺の師匠は、"レイヴン・ハウザー"っていう元冒険者です。
今は引退して、王都の外れで小さな道場を開いてます」
「レイヴン……どこかで聞いた名前だな」
ゼルヴォードは考え込む。
確かに、どこかでその名を聞いたことがある気がした。
「師匠は元々、"クリムゾン・ファング"っていうパーティーの一員でした」
ゼルヴォードは目を細める。
(……クリムゾン・ファング。確か、10年くらい前に解散したパーティーだったか?)
「お前の師匠、結構な実力者だったんじゃねぇのか?」
エリックは少し苦笑いしながら頷く。
「ええ。でも、ある依頼で大怪我を負って引退しました。その時に、この剣を俺に託したんです」
("ある依頼"……か)
ゼルヴォードは剣を手に取り、刃の状態を慎重に確認する。
(この剣……ただの片手剣じゃねぇな)
「お前、この剣を持ってる時、何か違和感とか感じたことはねぇか?」
ゼルヴォードの問いに、エリックは一瞬考え込み──そして、驚いたように顔を上げた。
「……言われてみれば、時々、妙に軽く感じる時があるんです」
「軽く?」
「はい。普段はそこそこの重さなんですが、戦ってる最中、時々"スッ"と振り抜ける感覚があるんですよ」
ゼルヴォードはその言葉に興味を引かれた。
(……こいつ、ただの鉄の剣じゃねぇな)
「わかった。とりあえず、修理しながら詳しく見てみる」
ゼルヴォードは炉に火をくべ、剣を加熱する準備を始めた。
(まずは、刃の損傷を修復するところからだな)
剣を高温の炉に入れ、金床の上に置く。
その瞬間──
──カンッ……!
通常の鉄とは違う、独特な音が響いた。
(……こいつ、ただの鋼じゃねぇ)
ゼルヴォードは目を細め、慎重に槌を振るう。
「──精融」
槌が刃に触れた瞬間、鉄が滑らかに変化し始める。
(やっぱりな……こいつ、"何か"が混ざってる)
修理を進めながら、ゼルヴォードはこの剣の真相を探る決意を固めた。




