第118話:補助指輪の依頼
鍛冶場の炉が静かに燃え続ける中、ゼルヴォードは作業台の前で腕を組んでいた。
その目の前には、一枚の注文書が置かれている。
今回の依頼人は——魔導士ギルドのサブギルドマスター、リオネル・アークウェイブ だった。
「……補助指輪の作成依頼?」
注文書には、こう書かれていた。
《魔導士ギルドより正式依頼》
「補助効果を持つ指輪を数点制作せよ」
「魔導士だけでなく、戦士や冒険者にも有用なものを」
ゼルヴォードは顎に手を当て、考え込む。
「補助効果って言っても、どんなものがいいんだ?」
フィルミナが興味津々に覗き込みながら口を開いた。
「戦士なら力が上がる指輪とか?」
「魔導士なら魔力の流れをよくするものとか?」
確かに、その方向性が一般的だろう。
しかし、単なるステータス強化の指輪では、錬金術師が作る魔法道具と大差がない。
「鍛冶師の技術を活かした指輪……」
ゼルヴォードは腕を組み、いくつかのアイデアを思いつく。
ゼルヴォードは、指輪の設計案を3つに絞った。
1.力の指輪
➡ 魔力を込めると一時的に握力や腕力が増す
➡ 戦士や冒険者向け。ただし、長時間の使用には負担がかかる
2. 魔力制御の指輪
➡ 魔力の流れを整え、魔法詠唱を安定させる
➡ 魔導士向け。詠唱速度は変わらないが、暴発やブレを抑える
3.均衡の指輪
➡ 装備者の魔力と体力のバランスを自動調整する
➡ 両方を兼ね備えた「魔剣士」向け。力に応じて魔力か体力を補う
「この3種類を作ってみるか……」
ゼルヴォードは、実際に依頼を出したリオネル・アークウェイブに話を聞くため、魔導士ギルドへ向かった。
ギルドの奥の執務室に通されると、リオネルが静かに書類を整理していた。
「ああ、来たか。話は通っていると思うが、補助指輪の依頼についてだ」
「具体的な使用目的を聞かせてもらおうか?」
リオネルは書類を手に取りながら、ゆっくりと説明を始める。
「近年、魔導士と戦士の連携が重要視されている」
「しかし、魔導士は肉体的に脆弱であり、戦士は魔力の扱いに長けていない」
「このギャップを埋める手段として、鍛冶技術を活用した"補助アクセサリー"を考えている」
「なるほど……つまり、魔法の補助を"鍛冶技術"で作るってことか」
ゼルヴォードは納得し、設計案をリオネルに見せる。
リオネルは書類に目を通し、少し考え込んだ後、頷いた。
「面白いな。特に"均衡の指輪"……これが実用化できれば、魔剣士の戦闘能力を大きく向上させるはずだ」
「そんじゃ、まずは試作してみるか」
ゼルヴォードは立ち上がり、炉に火をくべるため、工房へと戻ることにした。
新たな試み——「鍛冶師が作る補助指輪」 の制作が、今始まる。




