第11話:工房の契約と試される腕前
ゼルヴォードはギルドの奥にある物件窓口へと向かった。
カウンターの向こうには、書類を整理している中年の男性職員が座っている。
髪は短く整えられ、メガネ越しの視線は冷静だが、どこか事務的な雰囲気を醸し出している。
「物件窓口か?」
ゼルヴォードが声をかけると、職員は顔を上げた。
「はい、こちらは冒険者向けの施設を管理する窓口です。何かお探しですか?」
「鍛冶ができる工房付きの施設を借りたいんだが、空きはあるか?」
職員は少し驚いた表情を浮かべた後、手元の書類をめくり始めた。
「鍛冶施設付きの物件ですね。現在、いくつか空きがありますが……契約内容を確認させていただきます。あなたは冒険者ギルドの登録者でしょうか?」
「いや、登録はしてねぇ」
ゼルヴォードの答えに、職員は少し眉をひそめる。
「未登録者でも契約は可能ですが、ギルド登録者と比べると条件が少し厳しくなります。
ギルド登録者の場合、一部の手数料が免除されたり、支払いの猶予が与えられることがありますが、未登録者には適用されません」
「別に構わねぇよ」
ゼルヴォードは気にした様子もなく答えた。
(ギルドに縛られるのは性に合わねぇしな)
職員は納得したように頷き、いくつかの書類を取り出す。
「では、現在空いている物件をいくつかご紹介します」
◆選べる工房の選択肢
職員が示したのは、3つの物件だった。
① ギルドのすぐ近くにある標準的な工房
・立地が良く、冒険者がすぐに依頼に来られる
・鍛冶施設は最低限揃っているが、設備は並
② 王都の職人街の外れにある広めの工房
・立地はやや悪いが、設備が充実している
・ギルドの管理下ではないため、自由に使える
③ 旧ギルド工房の一角を使える特殊枠
・ギルドが管理していた古い施設の一部を貸し出し
・設備はそこそこだが、使用条件としてギルドの仕事をいくつかこなすことが必須
ゼルヴォードは3つの選択肢を眺め、顎に手を当てる。
(さて、どれがいいか……)
すると、職員が少し言いづらそうに口を開いた。
「……ただし、未登録者が契約する場合、最初に腕前の証明が必要になります」
「腕前の証明?」
「はい。この条件は鍛冶師に限らず、未登録の職人や商人がギルドの施設を借りる際には基本的に課されるものです」
職員は書類の一部を指で示す。
「簡単な仕事を受けてもらい、それを問題なくこなせるかどうかを確認することが条件となります。
鍛冶師なら、武器や防具の修理、もしくは製作を依頼されることが多いですね」
ゼルヴォードは腕を組んだ。
「なるほどな……で、どんな仕事がある?」
職員は新たな書類をめくり、一つの依頼を提示する。
「こちらの仕事はいかがでしょう?」
◆試験依頼:『損傷した剣の修復』
・依頼主:冒険者ギルド管理部
・内容:ギルドの訓練用武器の修理
・制限時間:本日中
・成功条件:使用可能な状態に戻すこと
ゼルヴォードは提示された内容を読み、軽く笑った。
「修理か……まぁ、ちょうどいいな」
「引き受けますか?」
「いいぜ。さっさと片付ける」
職員は少し驚いたようにゼルヴォードを見た後、頷いた。
「では、工房を案内します。試験をクリアすれば、そのまま契約に進めます」
ゼルヴォードは職員に続き、ギルドの奥へと歩いていった。