第113章:運命を打つ者として
──王都鍛冶師ギルド、試練石修復から数日後。
ゼルヴォードは鍛冶場で、いつものように火を起こし、槌を振るっていた。
カンッ──カンッ──カンッ……!!
「……ん、悪くねぇな」
目の前の剣は、完璧だった。
バランス、重量、刃の鋭さ。
長年培ってきた鍛冶技術を結集した一本と言える。
だが──
(……どれも最高の武器だった。だが、本当に作るべきものはまだ作っちゃいねぇ)
ゼルヴォードは剣を鍛冶台に置き、深く息を吐いた。
・戦場で通用する強靭な剣、折れない盾、精密な細工の短剣──数々の名品を生み出してきた。
・しかし、それらは"理想的な武器"ではあっても、"運命を変える武器"ではなかった。
まだ足りない。
修復した試練石の前に立ち尽くし、自分の槌が打つべきものを考えていた。
その答えが見えた気がする──いや、まだぼんやりとした輪郭が見えたにすぎない。
(俺が打つべきものは、まだこの手の中にはねぇ)
それはきっと、もっと先にある。
今はまだ、通過点にすぎないのだ。
その夜、ゼルヴォードは鍛冶場の外で、仲間たちと共に酒を酌み交わしていた。
「ゼルさん、本当にお疲れさまでした!」
フィルミナが笑顔で杯を掲げる。
カリーナも隣で頷いた。
「試練石の修復、無事に終わりましたね。これでギルドも安心ですね」
ゼルヴォードは酒を一口飲み、ニヤリと笑う。
「まぁな。でも、これで終わりってわけじゃねぇ」
アステリアが静かに杯を傾ける。
「……ええ。むしろ、ここからが始まり、というところかしら」
ゼルヴォードは火の灯る鍛冶場を見つめながら言った。
「俺は、まだ打たなきゃならねぇもんがある。それを見つけるまでは、止まる気はねぇよ」
フィルミナが微笑む。
「じゃあ、次はどんな武器を作るんですか?」
ゼルヴォードは焚き火の炎をじっと見つめ、ゆっくりと答えた。
「……"運命"を打つ」
その言葉に、誰もが一瞬、息を呑んだ。
「運命……?」
カリーナが目を輝かせる。
アステリアは意味深に微笑みながら杯を置いた。
「ふふ……また面白いものが見られそうね」
ゼルヴォードは槌を握りしめ、笑う。
「鍛冶師ってのはよ、どこまで行っても"打ち続ける"しかねぇんだよ」
だが、今はまだ通過点にすぎない。
・自分の鍛冶技術は、まだ未完成。
・今まで作ったどんな武器よりも、「本当に打つべきもの」はまだ作れていない。
・この槌は、まだ"運命"を打つ段階には達していない。
(……それでも、俺は進むしかねぇ)
──運命を打つ者として、ゼルヴォードの旅はまだ続く。
物語は、新たなる章へ。