第9話:冒険者ギルドでの再会
ゼルヴォードは冒険者ギルド本部の大きな建物を前に、足を止めた。
王都の中央通り沿いにあり、広々とした石造りの建物がギルドの威厳を示している。
(……さて、物件窓口ってのはどこだ?)
ギルドの扉を押し開くと、中は賑やかだった。
依頼掲示板の前で話し込む冒険者、酒場の一角で歓談する者、受付で報告をする者──
ここは"戦う者たち"が集う場所だ。
ゼルヴォードが周囲を見渡していると、ふと見覚えのある顔が目に入った。
「──あっ!」
驚いたような声とともに、ひとりの少女が駆け寄ってくる。
スレア──短剣使いの少女。
ゼルヴォードが旅の途中で助けた、3人の冒険者のひとりだ。
彼女の背後には、大柄な盾使い・ロイガーと、黒髪の魔導師・カーティスもいた。
「やっぱりあんたじゃない! すっごい偶然!」
スレアはニコニコしながらゼルヴォードの前に立つ。
ロイガーは腕を組みながら、安堵したように頷いた。
「助けてもらった礼も、ちゃんと言えてなかったからな……。改めて、ありがとう」
ゼルヴォードは軽く手を上げた。
「気にすんな。たまたま通りかかっただけだ」
「いや、それでアイアン・クローを真っ二つって……普通できねぇだろ」
カーティスが呆れたように苦笑する。
「戦士だと思ってたが……まさか鍛冶師だったとはな」
ゼルヴォードは肩をすくめた。
「まあな。戦うより、武器を作る方が向いてるって気づいたんでな」
「……いやいや、あんた絶対戦士向きだろ」
「だな」
スレアとカーティスが即答する。
ゼルヴォードは苦笑したが、特に否定はしなかった。
「で、お前らは今ギルドに報告か?」
「まぁな。前回の依頼の分を正式に処理してもらってる」
ロイガーが指で受付を示す。
するとゼルヴォードは、ふと思い出したことを尋ねる。
「そういや、ギルドに登録してなくても依頼って受けられるのか?」
「ん?」
3人は少し驚いたようにゼルヴォードを見た。
「鍛冶師がギルド登録……って、鍛冶ギルドじゃなくて?」
「ああ。俺は鍛冶ギルドには登録してねぇし、冒険者ギルドに登録するつもりもない」
ゼルヴォードの言葉に、ロイガーが顎に手を当てて考える。
「うーん……確か、ギルド登録してなくても"外部協力者"って形なら依頼は受けられるはずだ」
「ただし、ギルド登録者限定の依頼は受けられない。あと、正式な依頼報酬の保証はなしってことになるな」
カーティスが補足する。
「ギルド経由で受ける仕事は、"報酬の一部がギルド管理になる"のが普通だろ?
登録してないなら、個人契約の扱いになると思うぜ」
ゼルヴォードは納得したように頷いた。
(なるほどな……登録なしでも、個別の依頼は受けられるってわけか)
これは今後の活動方針を決める上で重要な情報だった。
登録すればギルドの依頼を正式に受けられるが、ギルドのルールに縛られる。
登録しなければ自由に動けるが、ギルドの支援は受けられない。
(……どっちにするかは、もう少し考えたほうがよさそうだな)
スレアが興味深そうにゼルヴォードを見た。
「ねぇ、じゃあ、これからは鍛冶師としてやってくの?」
「ああ。とりあえず、住む場所を探してるとこだ」
「へぇー……王都に工房持つの?」
「さぁな。まだ決めちゃいねぇが、冒険者ギルドに鍛冶場付きの物件があるらしい」
「それ、便利じゃん!」
スレアがぱっと表情を明るくした。
「王都の鍛冶師はみんな職人街に工房を持つけど、あんたが冒険者ギルドの鍛冶屋になったら、絶対利用する人多いと思うよ?」
「まあ……場所次第だな」
ゼルヴォードは軽く肩をすくめた。
その時、ロイガーがちらりと受付の方を見て言う。
「ところで、物件窓口なら受付の左奥のカウンターだぜ?」
「お、助かる」
ゼルヴォードは軽く手を上げる。
「じゃあ、俺はそっち行ってくる。お前らも、無茶するなよ」
「言われなくても分かってるって!」
スレアが笑いながら手を振る。
ロイガーとカーティスも軽く会釈し、ゼルヴォードは冒険者ギルドの奥へと歩いていった。