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9藤堂達の受難1

伊織の元パーティリーダー藤堂側三人称視点


「今日はいよいよ正真正銘のAクラス級ダンジョンに挑むぞ!」


「任せてくれ! 何しろ後ろを気にしなくていいからな!」


「そうよ! 魔法担当の私すら伊織の事気にしないと、あいつ、いつ死ぬか分かんない」


「だな、先鋒の俺ですら後ろが気になって仕方がねぇ始末だし」


「でも、伊織の支援魔法にはみんな助けられたよね?」


唯一伊織の味方をしたのは意外にも幼馴染の七瀬つむぎだった。


顔色は何処か後ろめたいモノを感じさせるモノだった。


「はあ。つむぎちゃんは優しいよなぁ」


「あんた、よくあんなFランクの男の彼女なんてしてたわよね。私ならまっぴら」


メンバーの戦士職秋山と魔法職の宮本がつむぎに非難めいた言葉を向ける。


「つむぎ。気持ちはわかる。長い付き合いのあった男だ。だが、住む世界が違う。そこは切り替えろ。いつか離れ離れになる運命だったんだ、お前達は」


「う、うん。わかってる。わかってはいるけど」


「切り替えるんだ!」


「わかった。戦いの前に良くないね。伊織、ううん、如月君の事は忘れる!」


藤堂の呼びかけにつむぎの気持ちは入れ替わった。


彼らは全員Aクラス探索者。


エリート意識が強く、まさかFランクの伊織が覚醒しているなど、露ほども思っていない。


「じゃあ、気を取り直して新メンバーの荒木あらたさんだ。皆、よろしく頼む」


「紹介された荒木です。皆さんみたいな有名なパーティに加えて頂いて光栄です。ランクはBですが、皆さんの足を引っ張らない様に頑張ります」


「そんなにかしこまるな。これからは仲間だ。ざっくばらんに行こう」


「流石、学園一のパーティのリーダーは気さくなんですね。感激です」


伊織が追放された原因はつむぎの恋人である藤堂にとって伊織がじゃまな事、戦力として不十分と判断した二つの理由からだ。


だから伊織の後釜の支援職のあては既につけていた。


「じゃあ。皆、気を引き締めて行くぞ! 戦力は向上した上、後ろを気にする必要がない」


「ああ、ちげぇねぇ」


皆、笑いながら八王子の踏破済Aクラス第三ダンジョンのゲートをくぐる。


☆☆☆


順調に攻略が進み、第十回層を踏破した。


「これからはオーガやサイクロプスなんかが出る。支援魔法を頼むぞ、荒木さん!」


「はい。任せて下さい。私、支援魔法に適した固有スキル二つもあるんです」


「心づぇ~」


「ほんと、伊織とは大違い」


「比べてやるなよ。あいつFランクだぜ、可哀想だろ?」


「そう言いながら、半笑いじゃない伊勢崎?」


意気揚々と第十一回層に侵入して行くメンバー、しかし。


「ちょっ! 荒木さん、支援魔法まだ?」


「え? さっき固有スキルで筋力、耐久力、敏捷力を同時に上げましたよ!」


「いや、HPやMP、それに知力や魔法攻撃、防御力が未だだろ?」


「え? いや、そんなに同時に支援魔法を展開できる人・・・世の中にいます?」


「おい、言い争っていないで、早く戦いに専念しろ!」


「わ、わかった」


以前なら余裕で倒せていたオーガやサイクロプスに苦戦する。


「ようやく倒し終えたか。宮本、攻撃魔法の手数も少ないし、威力も落ちてなかったか?」


「伊織の知力やデバフないと攻撃魔法の威力は出ないし、そもそもMPの上昇バフもらえてないのよ」


「伊勢崎。いつものキレがなかったんじゃないか? 以前ならもっと早く動けたし、剣の威力も段違いに思える」


「デバフ入ってないんだぜ。確かに速度はいつもより遅い気がしたけど、藤堂? お前も同じだったろ?」


皆、薄々気が付いて来た。


伊織の果たしていた重要性。


伊織の信じられないスキル習得の周到さを。


「荒木さん。君が使える支援魔法は三つだけなんだね?」


「そ、そうですが」


「少なすぎんだろ!」


「何非常識な事言ってるんですか! 個人のスキルとったら、スキル枠余るの普通二つか三つですよ。スキルは十二個までしか習得できないんですよ。どこにそこまで自分を犠牲に出来る人がいます? いざとなったら、自分の命は自分で守るしかないんですよ!」


皆、新加入の荒木さんの言葉は目から鱗だった。


「いや、そこは・・・伊織はFランクで超低スペックだから支援に極フリできたし、パラメータを敏捷度に極フリするような馬鹿だから、俺達の認識が間違っていたんだろう」


「そ、そうだな」


「そうね。そうじゃないと・・・伊織の方が荒木さんよ「皆、気持ちを切り替えろ!」


気弱になった回復職の秋山が思わず伊織の方が新加入のメンバーに勝っていると言ってしまいそうになるのを藤堂が遮る。


「考え方をリセットするんだ。少なくとも、荒木さんの命を心配しないで戦える処か戦力にもなってくれているんだ」


「そ、そうだな。俺は今日、一度も荒木さんの心配してないぜ。危なげないもんな」


「いや、支援職や回復職の命は最優先で確保するのが常識でしょ? どっちも代わりはいないんですよ! これ、常識ですよ!」


「い、伊織は支援バフを二重に重ねかけしてたし」


「え? そんな事できる人います? スキル一度使うとクーリングタイムが発生しますよね? 皆さんもそうでしょ? そんな便利な人実在します?」


「伊織は敏捷力が早いから、スキルのクーリングタイムも数秒なの」


幼馴染の七瀬 つむぎは気が付いてしまった。


自分を犠牲にして、徹底的にパーティに貢献する事だけを考えていた伊織の偉大さを。


そして、彼にしかできない奇跡とも言える芸当を当たり前の事と勘違いしていた事を。


認識を誤っていた事を。


「と、とにかく先へ進むぞ」


「マジ?」


「止めておこうよ。このままじゃヤバいって」


「皆さん、あの程度で根をあげるなんて、根性甘え過ぎてません?」


怒りを露わにした荒木さんが辛辣につっ込みを入れる。


そう、ダンジョン攻略がそんなに簡単な訳がないのだ。


皆、死に物狂いで戦って成長している。


彼らがこれまでピンチらしいピンチもなくドンドン先へ進めたのは伊織の支援魔法の進化が早すぎて、壁にぶつかる暇もなかったから。


本来あるはずの連携や前衛や後衛の弱点などを再確認して改める。


それが全くできていないでドンドン先に進んでしまった藤堂達のパーティ。


これまで学園一の異例の速度でダンジョン攻略を進めて来た彼らが、一番のお荷物になり下がった瞬間だった。

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