8氷華と委員長に助けられる
警察から事情聴取を受けた俺と氷華は当然放免となった。
殺人事件の現場は五階層の袋小路の人気のない場所らしい。
そういう意味では氷華も事件の容疑者の一人に数えられてしまった点は申し訳なかった。
だが、現場検証の結果、俺や氷華にかかわる物的証拠はなかった。
証拠の遺留品は残っているらしかったが、故に俺達の関与はほぼないと警察は判断した。
少々遅くまで事情聴取を受けたおかげでただで臭い飯とやらが食せるかと思ったら自腹。
氷華に奢らされたし。
あいつ、感覚古いんだよな。奢るのは男の甲斐性でしょ? とか言われた。
おかげでかつ丼二杯分のお小遣いが消えた。
イレギュラー討伐の報告をクランの責任者に報告すべきなのに、あくる日に見送りになったし。
そんな訳で眠い目をこすりながら高校に登校してクラスの教室に入った。
普段ならおはようとクラスメイトに挨拶をしていた訳だが、今日はそんな訳にも行かず、無言で自分の席に移動する。
気が付くと、俺は足を掛けられて転んでいた。
「なぁ、伊織? お前、七瀬に振られた上、藤堂達のパーティから追放されたんだよな? ならわかるよな? 俺、喉が渇いてんだけど、ジュース買ってきてくれねぇかな? 買ってくるよな? 普通? もちろんお前の金で、当然だよな!」
「なんで、俺がお前のジュースなんて買ってこなきゃいけないんだ!」
俺は腹に据えかねた。藤堂達の仲間じゃないだけで、下に見るってか?
下だからパシリ? それに、これはパシリというよりただのイジメだろう?
「なあ! お前、なんでそんな偉そうなんだぁ! 藤堂達学園一のパーティに入っていたからだろ?」
「俺が何処のパーティに属していようが俺は俺だろうが!」
「ぎゃはははっ、こいつ! 生意気にも反発してやがる! 受ける!」
こいつらぁ! その時。
「何、伊織に失礼ぶっこいてんの? そんな理由で恥ずかしくないの!」
そこで声をかけてくれたのは氷華だった。
「お前、地味眼鏡じゃねーか。悪いことは言わねえからこんなヤツにかかわるな! 絶対何かされるぞ!」
「伊織が変な事をする訳がないでしょ! この馬鹿ァ!」
「お前、知らないのか? こいつ、昨日殺人事件の容疑者として警察にしょっぴかれたんだぞ?」
「知ってるわよ。一緒だったんだから!」
どうやら例の話。こいつらの中では既に犯人は俺と言う事で、確定事項になっているらしい。
こんなに早く、何故? 一方、警察は無罪放免したという情報は伝わってないのか?
「伊織はあたしを命がけで助けてくれた! 今度はあたしが伊織を助ける!」
氷華がみなの前で宣言するが。
「あ〜あ、こいつ可哀想に、地味眼鏡、伊織にたらしこまれたな。無理もないかぁ。こんなダッサイヤツに男が近づいたら、簡単に落ちるか。本気で信じているぜ! 馬鹿だなぁ! やっぱり地味眼鏡はガリ勉なだけでオツムのネジはゆるいらしい」
「最弱Fランクの伊織とぴったりお似合いだよなぁ!」
不快だ! 氷華のオツムがゆるいだと?
氷華は地の頭がいい。探索者学科以外もほとんどトップクラスの秀才だし、意外といいヤツ!
それなのに!
気がつくと、俺は拳を握りしめてフルフルと震えていた。
「だめ! 伊織! 暴力なんて振るったら、コイツらと同じ次元の人間!」
「なんだよ? まるで、俺たちの方が悪いヤツみたいな言い方して。どうせ、このクズ野郎に言いようにされて捨てられるのに、馬鹿なお前の事が心配で言ってやっているんだぜ」
悔しい。俺のことはいい。でも、氷華にまで迷惑をかけて。
俺とかかわったばかりに、こんな嘲りを受けるなんて。
それに対して何もできない自分が不甲斐なくて。
「不満なようだな? じゃあ、証明してやろうか? コイツがやったことを?」
「どこに証拠があるの? ただの邪推でしょ?」
俺は嫌な予感がした。
いくら粗暴なこいつでもここまでハッキリと俺を犯人と断定する所以は?
「なあ、宮本 ? お前、昨日何を見たんだ? あのダンジョンで?」
突然、こいつが、隅の方に座っている、俺の元パーティメンバーの宮本に近づいて、声をかけた。
「や、止めてぇ! 昨日の事は、私、思い出したくないのぉ!」
宮本は自分の身体を抱きしめると、震えながら話した。
「もう止めて。止めて。昨日のことはもう!」
震える声で涙声で訴える宮本。
ほとんど何の証拠もないのに、これじゃ俺があの事件の犯人にされてしまう。
「ああ! 本当に腹が立つ!」
「お前、よく人を殺して、平気で学校に来れるなぁ?」
「俺、お前だけは許せねぇ!」
「Fランクは所詮、人間としてもFランクのクズって事だな」
流れは完全に殺人事件の犯人が俺、という流れになってしまった。
氷華はどうするだろう?
俺にかかわったら氷華にまで被害が及びかねない。
ふと元幼馴染の七瀬を見ると、他人のふりをしていた。
でも、氷華の口から出てきたのは。
「あんた達馬鹿ぁ? 今のに、一体どこに証拠能力があるの? あんた達、きちんとした論拠も無く、伊織の事、噂だけで犯人に仕立て上げてんのよ!」
「じゃ、お前、宮本が嘘を言っているってのか?」
「宮本さんは伊織が何をしたかなんて一言も言ってないわよね? それにそんな事があったんなら、訴えるまでも無く、学校に平気で来れる訳ねえだろ、ぼけっ!」
氷華はなおも、俺を庇ってくれた。でも。
「氷華、もういいよ。俺は氷華が信じてくれればそれでいい。それに、これ以上は宮本を傷つけるよ。理由は判らないけど、宮本に何かあったのは事実みたいだ」
俺は氷華が俺みたいになってしまわないか心配した。
それに、宮本が何故あんなことを言うのかはわからない。
何かあったのは間違いないと思うが。
「はぁ、可哀想に、こんなクズをすっかり信じて、まあ、お前もクズってことだな」
『なぁ、伊織? お前、七瀬に振られた上、藤堂達のパーティから追放されたんだよな? ならわかるよな? 俺、喉が渇いてんだけど、ジュース買ってきてくれねぇかな? 買ってくるよな? 普通? もちろんお前の金で、当然だよな!』
突然、さっきこいつが俺に言っていた言葉が氷華のスマホから、流れてきた。
「どっちかクズ? クズって、あんた達の方じゃない? これ、客観的に聞いて、どう思う? クズはあんた達! 伊織の無実はあたしが絶対に晴らす!」
氷華の迫力にみな、気後れしたのか、みな無言になる。
「チッ! すっかり地味眼鏡をたらしこみやがって!」
「今日から、伊織への無視、マックスな!」
「・・・クズ」
「その通りよ!」
氷華が一言クズと言うと、突然大声で割って来た人物がいた。
「クズはあなた達よ! か、勘違いなんだからね! 決して伊織君の事好きだとか、愛してるっとかいう感情からじゃなくて、伊織君の事信じたくてしょうがないだけなのぉ!」
「お、おい。委員長? お前、どうしたんだ?」
「だからぁ! 私は伊織君の事信じる! 宮本さんの言ってる事って、唯の匂わせで確たる事は何も言ってないじゃないの!」
「いや・・・お前。伊織の事好きだったの・・・か?」
普段真面目が服を着ている様な委員長のご乱心で、皆、騒然となった。
気が付くと、氷華が俺の左腕を掴んで必死に引っ張っていた。
えっと? 一体何が起こっているのかな?
カオスに満ちた中、担任の先生が来てホームルームが始まり、お開きになった。
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