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4禁断の実験

「この外道がぁ!」


思わず叫ぶ!


イレギュラーという存在。


ダンジョンはどこまでもゲームの様な世界。


低階層には脅威度の低いモンスターしか出現しない。


自然界ならあり得ない法則で整然と整っているダンジョンという世界。


その中にあって唯一例外といえる不自然、いや自然とも言えるイレギュラーという存在。


多くの研究者がこの異例な存在であるイレギュラーに対して多くの仮説を立てていた。


その中に一つにこういうものがある。


『イレギュラーとはダンジョン固有種ではなく、人間がモンスターになり下がったモノ』


そして思い出すのが、今日の朝のテレビで報道されていた死刑囚の刑の執行。


もし、ダンジョンに拘わり、外道となり下がったものがイレギュラーとなるなら?


今日、刑を執行された死刑囚の罪は・・・


ダンジョン内で自らの妻と幼い娘を殺害し、その亡骸を永遠に隷属させ、僕とする魔法研究。


魔法の応用は様々なものが研究されている。


ダンジョン内で有利に戦うアイテムの研究、ダンジョン外で活用できるアイテムの研究。


だが、この男の行った研究は?


外道の所業としか言えなかった。


永遠に死なない僕はダンジョン内で役に立つだろう。


だが、その素材が生きた人間?


そんな事が許されるか?


答えは至極簡単だ。


人が決して踏み込んではいけない禁忌。


それをこの男は犯した。


屍の二人がこいつの妻と娘と知れた時、世間はこのマッドサイエンティストを糾弾した。


そして、殺人罪で裁かれた。


それが黄泉川よみかわ 零一郎れいいちろう


「お前! 黄泉川 零一郎だろう!」


「何故私の前世を知っている? そう、私は蘇った。私は悪くない。正しいのだ。だから蘇った。私が今、ここにあるのがその証左だ」


「ふざけるな! お前のような外道が正しい訳がない! お前は人からモンスターになり下がった愚かな人間に過ぎない! お前は罰を受けている! わからないのか?」


「わからぬなぁ。私はネクロマンサーとして蘇った。永遠の命、それに愛する妻と娘と永遠に生きていける。これを幸せと呼ばず、何と言う? これは神の褒美。そして私の研究を理解しない愚かな人間共への復讐の機会を与えられたのだ。そうに違いない」


愛する妻と娘だと?


愛している者を研究の為に手にかけたのか? この男は?


「お前は研究の為に奥さんと子供を手にかけたのか?」


「何を言っている。そんな事をする訳がないだろう? 私はただ、妻と子供に永遠の命を与えただけだ。そこの何処に罪がある?」


「お前には愛する奥さんと娘さんの声が聞こえないのか? 殺してくれと! 永遠に死なせてくれって懇願しているのだぞ? お前には聞こえないのか!」


「大勢に幸せを与えたからな。聞き分けるのも大変だから、聞こえんな」


大勢? そう言えば、この屍は何処から湧いた? 刑が執行されたのが今日だとすると、こんなに大勢の人間を屍になどできない。


イレギュラーが発生したら、直ちに討伐隊が編成され、数時間以内には片付く。


つまり、この屍は・・・


女性や子供ばかりのこの屍達は?


「なあ、お前のしもべの屍達って、何処から来たんだ? お前が生まれたのは今日だろ? ならこんなに屍の軍勢を連れているのは変じゃないか?」


「全く凡人とは悲しいな。警察と同じか。私が愛する妻や娘の為に入念な実験を行わない筈がなかろう。最初は何度も失敗もしたがな。妻と娘に永遠を与えた頃には完全な術式になっていた」


カラカラと笑う骸骨。


こいつ、完全にいかれている。


妻や娘以外にも大勢の犠牲者がいたという事だ。


報道にはなかったが、こいつの犠牲者は数百じゃ効かない数。


「悲しい。何故凡人は理解できない? 私の研究を理解できない。嘆かわしい。愚かな人間にはおそらく理解するのに数百年はかかるのだろうな。そうそう、お前は知っているか? 世間を騒がせた羽生真白女史の研究は本物。そんな事がわからんのは凡人だけ」


「お前と母さんを一緒にするな!」


母さんの名を出されて思わず叫んでしまった。


許せない。


こんな外道と母さんが同列に扱われるなんて、許せない。


「ほう? お前はあの羽生真白女史の息子か? これは興味深い。お前は研究者を目指すべき。そうだな。取引をしよう、お前の後ろの女を差し出せ。そうすればお前は見逃してやろう」


「お前はやっぱり狂っている! 生に価値があるとわかっている癖に永遠に生きる屍に価値があると矛盾した考えを持っている! お前の考えは矛盾しているんだよ! 何より母さんの子が仲間を敵に差し出す卑怯者な訳がないだろう! お前は唯の卑怯者だ!」


「クックッ。残念だよ。あの羽生真白女史の息子ならわかりあえるかと思ったのだが」


「お前のような狂った卑怯者になれ合うヤツなどいない! お前のはただの独善だ!」


いくら言い合っても並行線にしかならない。


わかってはいたが、ちょうど良かった。


母さんの名前を出されてつい冷静さに欠いたが、上手く時間を稼げた。


三分が経過した。


つまり、俺の固有スキルのチャージが完了した。


「骸骨。チェックメイトだ」


「それはどうかな?」


そう言うと、骸骨は俺に視線を向けた。


赤い双眸が燃えるように赤く光っている。


目が強く輝いたと思ったその時。


「何?」


「奥の手を絶えず考えておくものだよ。若者」


そう言うと、骸骨の頭上に大きな火球が現れた。


「お前達には魔法攻撃に対する耐性がない事がわかった。女は連射速度は速いが高いレベルの魔法は使えない。お前に至っては支援魔法以外何も使えん。攻撃魔法への対処方法がない」


「へえ。確かにそうだな。だったら、もっと早くその攻撃魔法を使うべきだったな」


俺はそう言うと、手を前に差し出して・・・掌からアブソリュートゼロを発射しようとした。


「しまった!」


「はっはっはっは。未だ何かしようとしたか? だが、そんな状態で何が出来る?」


手足に光る輪が巻き付いて、四肢をがんじがらめにされてしまった。


俺は三分前にアブソリュートゼロを掌から射出するイメージをしてしまった。


つまり、掌を向けた先にしか攻撃できない。


万事休す?


いや、ここは姫野に感謝だな。


俺は叫んだ。


「姫野!」


「任された!」


俺の左前方にジャンプして、一回転する姫野。


続いて姫野の剣達が骸骨に襲い掛かる。


一瞬、骸骨の視線が姫野に移った。


やはり。


次元波動爆縮アブソリュートゼロ!」


「しまった!」


俺の掌から白い光線が発射される。


俺を拘束していた光る輪っかは消えた。


姫野があの時耳打ちした。


あの技は何の前触れもなく現れるが、おそらく視線を合わせている相手にしか使えない。


一度戦っただけで姫野が勝ち取った情報。


やっぱ、お前スゲーな。


骸骨は慌てて火球を俺に向かって射出する。


だが全ての物質の時間を完全に停止させてしまう俺のアブソリュートゼロに巻き込まれて氷塊に変わる。


そして骸骨を襲った俺の光る光線、アブソリュートゼロはこの咎人を構成している霊子の核を完全停止させる。


氷漬けになった骸骨を見て俺は最後の仕上げに入る。


こいつを構成している全ての物質はその時間が完全に停止し、絶対零度の状態になっている。


この状態で、僅かな衝撃でも受けたら?


例え霊子で構成されている霊体であるネクロマンサーとは言え、物理攻撃でその全てが崩壊する。


研究が認められない? 理解されない? 努力が報われない? 周りが悪い?


その怨嗟の重なりがお前を狂わせたか?


お前は苦しかったんだろうな。


辛かったんだろうな。


だがな・・・


「そんなのは誰でも一緒なんだよこのクソ野郎!」


俺は剣を骸骨に振り下ろした。

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