38死に行く君へ1
「弱い? 我が弱い? 人間ごときがそれを?」
「ああ。弱いだろ? ダンジョンの中に比べたら・・・な」
「それはお前らも同じであろう。いや、我らより遥かに弱い。ダンジョン外の覚醒はお前ら人間の方が時間がかかる。故に地上に顕現したばかりの我にも勝てる道理など無いわ」
「そうかな? 俺には弱くて仕方ないようにしか見えんな」
「人間、我を愚弄し、何か企んでおるな。笑止、その様な手にに翻弄されるものか」
「なら、試してみるか? お前が弱いのかどうかをな」
突然巻き上がる殺意。
時間稼ぎには成功した。
更に、一旦頭に血を登らせた上に冷静にさせた。
奴の言う通り、俺達の地上での能力は限定的。
おそらく奴の言う通り、地上での能力は俺達の方が劣っているだろう。
なら、奴が取って来る戦術は?
こいつの戦術は【凍てつく吹雪】と【凍てつく吹雪】の連続攻撃によるHPとMPの消耗。
腹が立つくらい嫌らしい地味な戦術だが、理に叶った戦術。
俺の固有スキルが時限式のものじゃなかったらな。
故にこいつは同じ攻撃を繰り返す事に終始する。
大技持ってたら一巻の終わりだが、HP、MPを削り切ってから使うだろう。
「アイスバレ―――『【凍てつく吹雪】発動を確認。全てのバフ、デバフが強制消去されました』
氷華が先陣を切って戦いを再開する。
「第一術式 撚糸!」
「氷華、結菜、パターンは前と一緒、わかるな?」
「ああ、わかってる。伊織は性格悪いからな」
「わかってる。俺は足を引っ張るだけだからな」
「何をわかってるんだよ。いつも活躍してるだろ? もっと自信持てよ」
「そうだな。見境なしにガンガン行くか」
「急に調子に乗るな! 命大事にだわ」
「おのれ、相変わらず我を無視しよって」
氷華がいい具合に天使を煽る。
理性の回復と欠落。
交互に行い、こちらの意図を察知されないように誘導する。
今の奴は適度に怒り、適度に理性を保つ。
地上で本来の力が出ないのは奴も同じ。
ならば、ジャックフロストのオリジナルの奴は、同じ戦術に終始する。
戦いを臨機応変に、なんてのは唯の行き当たりばったり。
こいつはかなりの知性を持った存在。
ならば、己の基本戦術を変えたりはしない筈。
「アイスバレット!」
「第一術式 撚糸!」
「伊織! 行けッ!」
「任された! 氷華!」
氷華に促されてヤツに数撃剣を振るう。
「あまり効いてませんの」
「そうみてーだな。伊織、時間は?」
「多分、後一分位。正確にはわからん。感覚だけだ」
「その感覚に懸けてる。あたしのアレ、使う」
「そんな・・・氷華さん、こんな処でなんて卑猥な」
「なんでだよ! なんでそんな嘲り受けんと行かねーんだよ!」
「わかってますの。伊織君の為に何かエロい事するつもりなのですわ」
「今の状態で、そんな需要ねーわ!」
いいぞ。結菜が上手く俺と氷華の打ち合わせ内容を悟られないようにフォローしてる。
「愚かな人間! 我の力に屈せよ!」
『【氷結の波動】発動を確認しました』
襲い掛かる大寒波。
体感温度は大した事はない。
ジャックフロストのそれは氷点下百度にもなり、リフレクタが無ければ一瞬で人間の生身なんて血も肉も何もかもが氷結する。
こいつの【氷結の波動】はおそらく氷点下三十度ってところか。
もちろん、寒波の寒さ事態より、寒波に乗って来る魔力の方がダメージが大きいのだが。
俺達はそれぞれ防御魔法でしのぐ、寒波が収まる前に氷華が一気に行く。
「【百花繚乱】」
花が咲き乱れ、無数の剣が顕現する。
「行け! みんな!」
氷華の掛け声と共に、百の剣が一機に天使に襲いかかる。
「大丈夫か? 氷華?」
「大丈夫な訳ねーわ」
「あら、そんな事言って照れてますの、氷華さん」
「照れてねーわ」
「はい。はい。照れてますね」
「照れてねーから!」
俺は氷華を庇う為に氷華の傍に行った。
氷華は固有スキルを放つ為に防御魔法を打ち切った。
もろに【氷結の波動】を喰らった氷華はかなりのダメージ。
だが、【氷結の波動】が続いている間は【百花繚乱】が天使にダメージを与え続ける。
約一分が経過した。
「随分とやられたな。天使?」
「おのれ。人間風情が。我はお前ら人間をを心の底から侮蔑する。神は何故人間を庇護する? 我ら天使が人間を生かす為の唯の道具として作られた? こんな矮小な存在を生かす為の道具? この偉大な存在である我ら天使が唯の人間への道具だなど、死んでも認めん!」
そうか。
何故天使が人間に敵意を抱くのか?
その理由はわかった様な気がする。
神の教えに天使とは人の為に作られた存在と聞いた事がある。
事実なら、この高慢ちきな天使共には、さぞかし不快だろうな。
だから人間を害しようとするのか?
本来、人間を導く存在である筈の天使が人間を滅ぼそうという理由。
それは嫉妬。
嫉妬だからだ。
「あんたバッカじゃないの? そんなつまんない理由で怒ってんの?」
「我を侮辱するなど言語道断。死をくれてやろう」
天使が理性を無くした。
ここはチャンスでもあるし、ピンチでもある。
万が一、ジャックフロストと違う強力な固有スキルを持っていたら、万事休す。
「行くぜ! 氷華!」
「任された! 【魔力集中】アイスバレット!」
氷華の【魔力集中】からのアイスバレットが天使を襲う。
もちろん陽動。ジャックフロストの時と同じ。
「覚悟しろ! このクソ天使! 【斬撃】!」
天使の未来位置へ筋力、耐久力、敏捷力百倍の状態で剣戟をたたっこむ俺。
「・・・ッ!?」
俺の剣がヤツを捉えたと思った瞬間。ヤツはおれの速度を上回った。
気が付くと、ヤツの剣が俺の心臓を貫いていた。
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